ユリス・ナルダンがCal.22を採用した1939年製のクロノグラフ(写真◎クールビンテージ)
業界唯一のアンティーク時計の専門誌「LowBEAT(ロービート)」の編集部が「アンティーク時計とは?」をテーマにお届けする連載企画「アンティーク時計入門」。なるべく小難しくならないよう毎回簡潔にお届けしたいと思う。そして第1回はアンティークの世界でも特に人気の高いクロノグラフについてだ。
ストップウオッチの機能を軸にそれに付随する計測機能も含めたその総称をクロノグラフと呼ぶ。そしてこのクロノグラフ機構を装備したムーヴメントを当時主流だった懐中時計ではなく小さな腕時計用として最初に開発したのはロンジンと言われている。そのムーヴメントとはキャリバー13.33。開発されたのは1913年でいまから111年も前のことだ。
続いて第1次世界大戦が勃発したその翌年の1914年には、ムーヴメントの製造を専業とするバルジュー社が同社初の腕時計用小型クロノグラフムーヴメント、キャリバー22(GHT)を開発するなど、クロノグラフ機構を装備したムーヴメントが1910年代になって一気に腕時計用としての小型化が加速した。その背景にあるのは軍用品としての重要性である。つまりこの戦争が大きく関わっているというわけだ。
バルジュー社のCal.22(写真◎クールビンテージ)
バルジュー社はキャリバー22をさらにサイズダウンしたキャリバー23を16年に開発。これはパテック フィリップをはじめ多くのブランドが採用したことでも知られる。そして1974年に生産を終了するまで実に58年間も製造された傑作である。
その後、1939年に起こった第2次世界大戦からは、戦闘機や爆撃機といった航空機が結果を大きく左右するほど戦術的に重要な位置付けとなったため、クロノグラフウオッチに対する重要性がさらに高まり、様々な機能が開発されるなど、さらに進化を遂げていくことになる。
続いてはそんなキャリバー22を搭載した3メーカーのクロノグラフを紹介。
[ユリス・ナルダン クロノグラフ]
1930年代独特のフラットなカラトラバベゼルと筒状の18金ローズゴールド製シリンダーケースを採用。90年以上前に販売された当時の純正箱からギャランティーペーパーが付属している点もかなり希少。
【商品詳細】K18RG(35mm径)。手巻き(Cal.22)。1939年製。65万円。取り扱い店/クールビンテージウォッチ
[ベッタ クロノグラフ]
1940年代にベッタが製造したクロノグラフ。ややブラウン化したブラックミラーダイアルに下地出しのシルバーレター。4つビス防水のクラムシェルケースを採用する。
【商品詳細】SS(38mm径)。手巻き(Cal.22)。1940年代製。150万円。取り扱い店/キュリオスキュリオ
[キャプト クロノグラフ]
ほとんどなの知られていない無名系メーカーのクロノグラフだが、スピルマンケースでに文字盤はブラックミラー、さらに抜字のライトゴールドレターで、ミニッツトラック部はグレーとなかなかの作り。
【商品詳細】SS(38mm径)。手巻き(Cal.22)。1940年代製。68万円。取り扱い店/キュリオスキュリオ
1960年、セイコーは“スイス製腕時計の精度に負けない日本製腕時計を生み出す”という命題のもと、グランドセイコー(諏訪精工舎)を完成させた。
実際、グランドセイコーは、プラス12秒〜マイナス3秒以内の日差など当時のクロノメーター規格と同等の基準を設定した社内検定を15日間にわたって実施し、合格したものだけを出荷するという体制を敷いており、非常に優れた性能を有していた。
25石、毎秒5振動のCal.3180を搭載し、ケースは金張り仕様、価格は2万5000円と当時の国産時計としては高価(大卒男子初任給が1万円ほどだった)なものだったが、世間にセイコーの高い技術力を十分にアピールした傑作といえよう。
初代モデルが公式のカタログに掲載されていたのは64年までだが、その後、カレンダー表示付きの“57GS(64年初出)”や自動巻きモデルの“62GS(67年)”といったグランドセイコーの名をもつモデルが次々と生まれ、今日では独立したブランドとして、世界から注目を集める日本製腕時計を展開している。
【商品詳細】GP(35mm径)。手巻き(Cal.3180)。1960年代製。66万円。取り扱い店/BQ
ブライトリングを象徴するモデルであり、航空時計の金字塔として現在も受け継がれるナビタイマー。その誕生は1952年までさかのぼる。
最大の特徴は、当時のパイロットに不可欠だったツール“回転計算尺”を時計の回転ベゼルに組み込んだ点にある。同社ではすでに42年に回転計算尺を備えたクロノマットを展開していたが、ナビタイマーはその発展形であり、言わば身に着けて使用できるフライトコンピューターだったのだ。
搭載しているのは、当時のブライトリングが好んで採用していたヴィーナス社製のクロノグラフムーヴメントのCal.178(一部バルジュー社製も搭載した)。
今回取り上げている個体は3rdモデルに分類されているもので、文字盤ロゴの変更やベゼルの形状に改良が加えられている。
【商品詳細】Ref.806。SS(40.9mm径)。手巻き(Cal.178)。1960年代製。69万3000円。取り扱い店/セコンド
2025年に創業270周年を迎える時計界の超老舗ヴァシュロン・コンスタンタン。同ブランドはかつてジャガー・ルクルトのベースエボーシュを好んで採用していた。
そのなかでも愛好家から高い評価を得るムーヴメントのひとつが手巻きの1000系キャリバーである。
同キャリバーが高い評価を得ている理由は、ずばり優れた性能と美観、薄さを兼ね備えた点にある。1000系にはスモールセコンド仕様の1001、センターセコンド仕様の1002、そしてこれらよりもさらに薄型化した1003とバリエーションあるが、1003の厚みはわずか1.64mmしかない。
加えて直径は20.8mmと小振りで、ドレスウオッチに搭載するのにうってつけのムーヴメントだったのである。
もっとも、そのムーヴメントの径の小ささからケースサイズ自体も主に32mm前後と小振りなものが多い。実は海外ではこの小さいゆえに需要がそれほど高くなく、相場は控えめだ。
時計としての完成度をみればパテック フィリップにも匹敵しながら、100万円アンダーでも十分狙える個体が多いヴァシュロン・コンスタンタンの1000系キャリバー搭載モデル。
小振りなアンティーク時計を探している人は、ぜひ選択肢のひとつに加えてほしいモデルだ。
【商品詳細】Ref.6506。YG(33mm径)。手巻き(Cal.1003)。1960年代製。89万円。取り扱い店/黒船時計古酒店
編集部が注目した最新入荷情報をお届け。今回取り上げるのは、フランス空軍用クロノグラフとして有名な“タイプ20”です。
現在では、ブレゲがその名を冠したコレクションを展開していることでもよく知られていますが、実は当時製造を担ったのはブレゲだけでなく、ヴィクサとアウリコスト、ドダーヌ、エイランと複数の時計メーカーが行っていました。
さて、この“タイプ20”という名称。よくモデル名やコレクション名と勘違いされることが多いですが、そうではなくフランス国防省が定めた規格を指す名称です。1952年12月に制定されたのがタイプ20、そして56年4月に制定されたのがタイプ21となります。
今回紹介するモデルは、ヴィクサが製造したタイプ20になります。
回転ベゼル付きのフライバッククロノグラフ、視認性に優れたブラック文字盤&アラビア数字インデックスなど、各社規格に則って製造しているため基本仕様はほぼ同じ。この個体で搭載するのはタイプ20で唯一使用されているドイツメーカーのハンハルトのCal.4054になります。
実際に軍で使用されていたというバックボーンも大きな魅力ですが、その来歴が裏ブタなどに刻まれているという点も軍用時計ファンを魅了するポイントです。
この個体の裏ブタにも様々なアルファベットと数字が入っているのがご覧いただけるでしょう。
フランス軍は当時、時計の定期的な精度検査を実施し、保証期間を裏ブタに刻印していました。“FG”で始まる数字がそれです。この個体を見ると、1954年の納入から、79年までフランス軍の管理下で使用されていたことがわかります。
また、“5100 54”という数字はヴィクサの契約番号と契約年を示し、“P”はフランス軍が契約していた、パリの航空時計修理専門工房である“ペショワン”に送られたことあることを示しています。
こうした刻印にも注目してみると、いっそう軍用時計の奥深さに触れることができます。
【商品詳細】SS(39mm径)。手巻き(Cal.4054)。1954年頃製。77万円。取り扱い店/キュリオスキュリオ
1974年、セイコーはそれまでハイエンドラインとして展開していた“特選腕時計”を、新たに“クレドール(黄金の頂きの意)”と名付けてブランド化した。
その後79年に当時の流行にあわせて、SSケース、スクリューバックとネジ込み式リューズを採用し10気圧防水を実現した、国産初となるラグジュアリースポーツモデル3種を発表している。
それがKEH、KZT、KZHの3モデルだ。
型番でいうとあまりピンとこないかもしれないが、このひとつ“KEH”こそ、オーデマ ピゲのロイヤル オークなど数々の傑作を手がけたことで知られるジェラルド・ジェンタがデザインした“ロコモティブ”だ。
ロコモティブは以前より国産愛好家の間ではよく知られた存在だったが、2024年にクレドールブランド誕生50周年を記念し、チタン仕様で限定復活したことで、一気に多くの人に知られるようになった。
ロコモティブのオリジナル。“機関車”をモチーフにした独創的なデザインはいま見ても非常に新鮮。文字盤には機関車から吹き出した蒸気をイメージした繊細なパターンが施されている。
■Ref.KEH018。SS(36mmサイズ)。クォーツ(Cal.5932)。143万円(取り扱い店:BQ)
対してKZT、KZHはどういったモデルか。
ロコモティブとコンセプトを共通することから、こちらもジェンタデザインとウワサされていたが、実はそういった事実は確認されていない。また文字盤やブレスレットなどの造形をよく見てみると、ロコモティブに比べて明らかにコストへの配慮がうかがえることから、現在はセイコーの社内デザイナーよるものだったという説が有力だ。
とは言え、KZT、KZHともに、ロコモティブに引けを取らない前衛的かつ魅力なデザインに仕上がっているし、何より高騰したロコモティブに比べて相場が非常に控え目だ。
■Ref.KZT014。SS(37mmサイズ)。クォーツ(Cal.9461)。55万円(取り扱い店:BQ)
■Ref.KZH026。SS×K14YG(34×38mmサイズ)。クォーツ(Cal.9661)。16万5000円(取り扱い店:BQ)
現在、この3モデルがBQショップで取り扱い中なので、ぜひ3モデルの違いをチェックしてみてほしい。
編集部が注目したのは、“ダブルSWISS×アンダーライン”という希少なディテールをもち、エイジングも魅力的なロレックスのGMTマスター Ref.1675です。
改めてこの二つのレアディテールについて簡単に解説すると、まず“ダブルSWISS”とは、6時のインデックス下に入っている“SWISS”表記が見えますよね。実はこのさらに下に“SWISS”表記が入っています。GMTマスターのほかデイトナなどでも確認されており、限られた年代の一部の個体にしか見られない希少な文字盤仕様です。
もうひとつの“アンダーライン”は、6時のバーインデックスの上に見える横棒“ー”のことで、夜光にトリチウムを採用した初期個体で、放射性物質が規定の基準以下であることを示すために入れられたものといわれています。こちらもダブルSWISS同様に限られた年代の一部の個体にしか見られず、愛好家から人気のあるレアディテールとなっています。
レア度もさることながら、ベゼルの褪色具合、艶感を残したミラーダイアルと全体の雰囲気も非常に良く、コレクター垂涎の1本と言えるのではないでしょうか。
【商品詳細】SS(40mm径)。自動巻き(Cal.1560)。1963年頃製。797万5000円。取り扱い店/コミット銀座
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