セイコーがかつて展開したモデルに“V.F.A.”の名をもつものがある。
これは“Very Fine Adjusted”の略称で、つまりは非常に高度な調整を施したキャリバーに与えられる称号だ。 18金ホワイトゴールドのケースには、世界にクォーツという名を広めたV.F.A.3820クォーツムーヴメントが納められている。
また外装も非常に凝っていてエングレービングが施された18金ケースと、天然石の文字盤を採用しており、当時の高級機種であったことを感じさせる。純正の18金ホワイトゴールド尾錠がついていることにも注目していただきたい。ケースと文字盤のコントラストが手首を鮮やかに彩ってくれる1本だ。
当時のカタログによれば、天然石の文字盤は、赤十勝石、ソーダライト、タイガーアイ、ヘマタイトのバリエーションが用意されており、この個体はソーダライトが用いられていることがわかる。さらに、文字盤は天然石から作りだされているため、同一のモデルは存在するが、まったく同じ模様はこの世に存在しないのだ。その特別さは高級時計としての魅力を十分に引き出しているのではないだろうか。
なおこの個体は1973年に製造され、貴金属や宝飾品を用いた高級腕時計“セイコー特選時計”というシリーズにラインナップされていた。発売当時のカタログでは53万円という、現代の感覚としても十分高価な価格だが、同時代のステンレスブレス付きの56GSが4万9000円であったことを考えると、18金ホワイトゴールドのケースであったことを考慮しても、かなりのハイエンドモデルに位置付けられていたことがうかがえる。
当時の日本の時計産業の粋を集め、究極の腕時計として生まれたV.F.A.クォーツ。スイスの時計産業を超えようと切磋琢磨した証であるということは、その完成度から伝わるのではないだろうか。
【写真の時計】セイコー クォーツ V.F.A.。Ref.3820-6000。K18WG(約36mm径)。クォーツ(Cal.3820)。1973年頃製。118万8000円。取り扱い店/BEST VINTAGE
文◎LowBEAT編集部