ロレックスの兄弟ブランド【チューダー】と【チュードル】はどっちが正解?

2024/11/08
by 堀内 大輔

古くからの時計ファンには“チュードル”と呼ばれてきたチューダー。
なぜ呼び名が二つあるかというと、チューダーは日本での正規販売ルートが長らくなかったことが関係している。
ブランドのローンチ以来、1970年代の一時期に存在した日本の正規代理店では“TUDOR”を日本語で“チュードル”と呼称し、2018年に日本での正規販売が再開された際に”チューダー”の名を用いたため、二つの呼び名があるというわけである。ちなみに同じ理由で、ロレックスもかつて日本では“ローレックス”と呼ばれていた。

先述のとおり、チューダーは日本での正規販売ルートが長らくなかったため、流通量も多くはなかったが、時計ファンからすると知る人ぞ知る名ブランドであり、実際に過去には何度かチューダーのブームも起きている。

ロレックスのディフュージョンブランドとしてハンス・ウイルスドルフが創設したことで知られるチューダーだが、その創設は1926年と意外に古い。52年には防水性に優れたオイスターケースと、自動巻きパーペチュアル ローター機構を搭載した“プリンス”を発売。ロレックスの重要な機構を継承したこのモデルは、グリーンランドに赴くイギリス海軍の探検隊に供給され、ブランドの信頼性を大きく高めることに成功した。

さらに54年にはブランド初のダイバーズウオッチ“オイスター プリンス サブマリーナー”を開発。当初100mの防水性能を備えたこのモデルは、その後に200mの防水性能を備えた“ビッグクラウン”に発展し、フランス海軍やアメリカ海軍に採用された実績をもつ。さらに70年代にはクロノグラフも製品化され、ラインナップは大きく拡充していった。

チューダーはロレックスの堅牢生を担保するオイスターケースを採用しつつ、ムーヴメントはエボーシュの汎用機を搭載することでコストを抑える手法で、ロレックスよりもリーズナブルな製品を展開していった。アンティークモデルはロレックスと共通パーツも多く、デザイン的にも似通ったモデルが目立つが、ディテールの違いが時計ファンの心をくすぐる。特に1960~80年代のスポーツモデルは珍重され、モデルによってはロレックスと遜色ないレベルの高額で取り引きされる例もある。

日本では1990年代にチューダーが注目されてちょっとしたブームになったことがあった。ロレックスと同じような仕様ながら価格が安いということで、古着のような感覚でアンティークのチューダーを買い求める人が多かったのだ。特に針の形状から“イカサブ”と呼ばれたサブマリーナーや、ロゴに薔薇が入った“薔薇チュー”と呼ばれた個体は人気が高かった。いまでも薔薇ロゴは人気が高いが、この時代にリダンされて書き加えられたダイアルも多いため、購入時には注意が必要だ。

【そのほかのチューダーを探す】


【往年のIWCを象徴する傑作ムーヴメント】技術者も太鼓判を押すペラトン自動巻きに注目!

2024/11/07
by 堀内 大輔

パイロットウオッチのマークシリーズや、耐磁時計のインヂュニア、ダイバーズウオッチのアクアタイマーなどの傑作を生み出してきたIWC。これらアイコンにも共通しているとおり、1940年代以降、同社ではとりわけ堅牢な設計を好んだことから、今日、“質実剛健”というブランドイメージが定着している。

堅牢設計を追求したのは、ムーヴメントも然りだ。
なかでも、オールドインターを象徴するムーヴメントと言えるのが、1950年に発表された“ペラトン自動巻き”である。合理的な設計による堅牢さと優れた精度を両立したペラトン自動巻きは、発表以降、改良を加えながら70年代後半まで生産されており、アンティーク自動巻きムーヴメントの傑作のひとつにも数えられている。

当時IWCはこのペラトン自動巻きを先述のインヂュニアやアクアタイマーといった、いわゆる役モノだけなく、様々なモデルに搭載した。
今回取り上げるのもそのひとつで、70年代に流行したオーバル型のケースに、ブルーカラーの文字盤を組み合わせたレトロポップな雰囲気が魅力となった1本だ。

ペラトン自動巻きの最終形であるデイト表示付きのCal.8541Bを搭載していることに加えて、ケースはミドルケースと裏ブタが一体になったワンピース構造で気密性を確保しており、実用性が高い点もうれしい。

【商品詳細】SS(40×35mm径)。自動巻き(Cal.8541B)。1969年頃製。24万2000円。取り扱い店/モンテーヌサカエチカ ショップページに移動


【そのほかのIWCウオッチを見る



ロレックスのヴィンテージ感際立つ二つのGMTマスター。100万円以上の価格差はなぜ?

2024/11/06
by 堀内 大輔

業界唯一のアンティーク時計の専門誌「ロービート(LowBEAT)」編集部が毎週水曜日にお届けしているアンティーク時計初心者向けの入門記事。前回は「【販売されているロレックスに「リダン」と書いてある】これってニセモノじゃないの?」と題して文字盤に手を加えた「リダン」品について取り上げたが、文字盤以外にもアンティーク時計には最初に販売された状態とは違う仕様で販売されていることはよくあることだ。ここに取り上げたGMTマスターもそんな代表的なもののひとつである。

これは、編集部が運営する当サイトに最近アップされたGMTマスター、Ref.1675(協力◎ジャックロード)である。1965年製で光沢感のある人気のミラーダイアル後期型で青赤のペプシベゼルがかなり褪色したヴィンテージ感漂う1本だ。


一方でもうひとつの下写真(協力◎ジャックロード)はその10年後の1975年に製造されたマットダイアルのGMTマスター、Ref.1675だ。ここまでの褪色はなかなかみたことがない。とても珍しいのではないか。


価格は前者が税込295万円。対して後者が408万円。本来であれば年代的にも前者が高額であってもおかしくはないのだが販売価格は300万円を切る。

理由は最初に販売されたときと同じオリジナルの仕様かどうか。後者は当初のオリジナル性が高い個体。対して前者は、その商品情報を見るとドットインデックスと針の夜光の盛り直しや24時間針の交換。さらにブレスレットは新品に交換されていると書かれている。つまり当初の仕様とは違う変更が加えられているからだ。

腕時計のアンティークの場合はオリジナル性が高いかどうかが価値を左右する。特にロレックスにおいてはGMTマスターだけでなく他のモデルも含めて70年以上もの間、モデルチェンジを繰り返しながらも現代まで生産され続けていることもあって、年代ごとの違いなどその当時のオリジナル性が最も重要視されるというわけだ。

だからと言って前者はダメかというとそういうわけではない。オリジナル性にこだわらないという人であれば、一部交換されているとはいえ文字盤やベゼルの雰囲気などなかなか魅力的。選択肢としてはありなのではないか。



【かつてロレックスやパテック フィリップも!】多くの時計ブランドにクロノグラフを提供した名門バルジュー

2024/11/05
by 堀内 大輔


時計ブランドにムーヴメントを供給する専業メーカーは“エボーシュ”と呼ばれる。アンティークウオッチにはエボーシュ製のムーヴメントを搭載した個体が多いが、特にパーツ数が多く、高い製造技術が求められるクロノグラフとなるとそれが顕著だった。クロノグラフのエボーシュメーカーではレマニア、ヴィーナス、ランデロンなどが知られているが、なかでも人気が高いのがバルジューだ。

バルジューのムーヴメントは設計のバランスが良く、機能性・耐久性にも優れていた。リセットハンマーなどはやや細めのデザインだが、それで壊れやすいということもない。バルジューは第1次世界大戦期の1914年に、初の腕時計用クロノグラフCal.22を開発。ストップウオッチという作戦遂行には欠かせない機構をもった腕時計は、軍用として需要が一気に高まった。現存する当時のバルジュー搭載機も、ミリタリーウオッチが多く見受けられる。
また当時バルジューは、ロレックスやパテック フィリップといったメジャーブランドだけでなく、マイナーブランドにもムーヴメントを供給していた。こうしたマイナーブランドのクロノグラフは、性能は遜色ないながらも価格は手頃なことが多く、おすすめだ。


【そのほかのクロノグラフをLowBEAT Marketplacで見る】


【ロレックスで30mm径の小顔モデル!】往年のスピードキングに注目

2024/11/04
by 堀内 大輔

1930年代半ば以降、ロレックスは手巻きモデルを拡販すべく、オイスターコレクションにいくつかのペットネームを与えた。有名なのはバイセロイやエアキング、そしてプリンスなどだが、ほかにも様々な種類がある。

今回取り上げるのは、そのひとつであるスピードキングで、1940年にリリースされたといわれる。その名の由来はよくわかっていないが、共通するのは約30mm径という小振りなケースが採用された、いわゆるボーイズサイズであったこと。
また文字盤は様々なデザインのバリエーションが展開されており、40年代にはベンツ針に飛びアラビアインデックス、50年代になるとアルファ針に砲弾インデックスというように年代特有の組み合わせが多く見られた。クラシカルで愛らしいフォルムが魅力的な1本だ。

【商品詳細】ロレックス。スピードキング。Ref.4220。SS(30.5mm径)。手巻き(Cal.10 1/2)。1940年代製。52万円。取り扱い店/セレクト ショップページに移動

【そのほかのロレックスを見る


【ジェンタ作品いくつ知ってる?】かつてセイコーの腕時計も手がけた時計デザインの巨匠

2024/11/01
by 堀内 大輔

1954年に誕生したポールルーターは後に様々なバリエーションが展開された。写真はそのひとつでアラビアとバーインデックスをもつポールルータージェットである

ジェラルド・ジェンタはラグジュアリースポーツの金字塔とも言えるオーデマ ピゲのロイヤル オーク、パテック フィリップのノーチラスのデザイナーとして知られる時計界の巨匠だ。時代に先駆けた独創的なセンスを発揮し、多くのブランドでアイコニックな作品を手がけ、時計界のピカソと称されるほど高い評価を得てきた。

1931年にスイスで生まれたジェンタは、当初はジュエリーデザイナーを目指していたが、程なくして時計デザイナーに転身。彼がその名を知らしめることになった最初の作品は、ユニバーサル ジュネーブのポールルーターだ。

当時のスカンジナビア航空は、アメリカ西海岸と北欧を結ぶ路線を距離短縮したかったが、冷戦下にあった時代ゆえにシベリア上空を飛行することができず、やむなく北極上を飛行するルートを模索するしかなかった。しかし北極は磁気の影響が凄まじく、スムーズな飛行のために耐磁性に優れたパイロットウオッチが求められていた。

ポールルーターはこの厳しい要求に応えて生まれた時計だ。薄く小型化するために、ムーヴメントの動力源であるローターを従来の1/4ほどのサイズに抑えたマイクロローターを採用(最初期は半回転式ローターを採用)。デザインを依頼されたジェンタ(当時23歳)は、マイクロローターを生かしたスリムで装着感が良く、しかも耐磁性に優れたケースを生み出した。ツイステッドラグのラインに、ジェンタらしい優美さを見出すことができる。ジェンタはこのほかにホワイト シャドウなど、様々な名デザインをユニバーサル ジュネーブに提供している。

時計業界で大きく名を売ったジェンタは、1960年代後期から70年代にかけて多くの時計ブランドからデザインの依頼を受ける。フリーランスで活躍するスターデザイナーの走りともいえる存在だったのだ。前述のロイヤル オークやノーチラスのほか、オメガのCラインケース、IWCのインヂュニア、ブルガリ ブルガリなどがその代表作だ。

潜水艦や機関車といった乗り物をモチーフにした自由な発想、エルゴノミックに基づいた有機的なデザインは、数十年の歳月を経た現在も各ブランドの主要ラインとなっているほど先駆けたものだった。1972年には自身の時計ブランドを創設しているが、そこではディズニーキャラの時計を手がける茶目っ気や前衛性も発揮していた。

ジェンタ自身は2011年に死去してしまったが、彼の作品はいまでも時計市場で高い人気をキープしている。アンティークモデルにもその作品は多いが、時代を超越したデザインゆえに、いまの時代でも違和感なく使うことができる。


【狙い目は流通も豊富なオメガ Cラインケース】


【カルティエウオッチ愛好家垂涎の的】“ヴィンテージタンク”のなかでも希少な1本

2024/10/31
by 堀内 大輔

カルティエを代表するモデルであり、同時に角形時計の代名詞的な存在である“タンク”。
その原点である“タンク ノルマル”は、1917年、当時ブランドの担い手だったルイ・カルティエが、フランスの軽戦車“ルノー FT-17”を上から見た形に着想を得てデザイン案をおこしたことは有名だ。

タンクは、後に世界的に流行するアール・デコを先駆けたデザインが人気を博し、今日まで受け継がれる人気コレクションに発展していった。

今回取り上げるのは、1940年代に製造されたタンクだ。
現在のアンティーク市場で流通しているタンクは、1970年代以降に製造された、主にETA製のムーヴメントを搭載したものが圧倒的に多い。対して、これ以前はジャガー・ルクルトなどの高級ムーヴメントを搭載している製造数が非常に少なかったため、愛好家垂涎の的になっている。
この個体は、1917年にカルティエがアメリカ市場を睨んでニューヨークに設立した時計製造会社のEWC(ヨーロピアン・ウォッチ&クロックカンパニー)が手がけたムーヴメントを搭載しており、いわゆる“ヴィンテージタンク”のなかでも希少性が高いモデルだ。

【商品詳細】K18YG(20×28mm径)。手巻き(Cal.8''')。1940年代製。264万円。取り扱い店/プライベートアイズ 【ショップページに移動】


【そのほかのタンクをLowBEAT Marketplaceで見る】


【販売されているロレックスに「リダン」と書いてある】これってニセモノじゃないの?

2024/10/30
by 堀内 大輔

業界唯一のアンティーク時計の専門誌「ロービート(LowBEAT)」編集部が毎週水曜日にお届けしているアンティーク時計初心者向けの入門記事。今回は「リダン」について取り上げる。上の写真は1940年代に製造されたロレックス・バブルバックで文字盤にリダンが施されたものだ。

この「リダン」とは経年変化によって文字盤が汚れたりシミができたりして、それを再塗装するなどキレイに修復して再生された文字盤のことを指す。「リダン」と聞くとどうしてもネガティブなイメージを持たれがちだが、修復しながらも長く愛用する習慣のある欧米では、昔からよくあることだったようだ。

つまり、「リダン」とはオリジナルを基本に、あくまでもキレイに再生された文字盤のことを指しており、いわゆるオリジナルになかったものを意図的に追加したり、他の人気デザインに似せて作ったりする「偽造」品や、個人的に楽しむために元の時計とは異なるデザインや色に変更した「カスタム」品とは違うため、アンティーク時計市場ではリダン品については販売されていても基本問題はない。

ただし、リダン品を販売する場合はユーザーから誤解を招かないよう、それを明記する必要がある。そのためアンティーク時計専門店では商品のタグや説明などにちゃんと「リダン」と明記したうえで販売しているというわけだ。

なお、リダン品については相場よりも安く販売されている。そのため当時のオリジナル性に特にこだわらない人や、ファッションとして少しでもキレイなものが着けたいという人には、選択肢のひとつに加えてもいいのではないかと思う。ただ、購入の場合は必ずアンティーク時計を扱っている専門店で現物を見たうえでの購入をおすすめする。

【90年代にフランス海軍が採用!?】フランスの老舗ブランドが製造を担った“1000m防水ダイバー”

2024/10/29
by 堀内 大輔


ここで取り上げるのは、1990年代にフランス海軍で採用されたと思われるダイバーズウオッチだ。

製造したのは、フランスで1857年に創業した時計メーカーのドダーヌ。日本ではあまりなじみのないブランドだが、航空機器のエキスパートとして、NATO軍やフランス軍、イギリス軍などに軍用時計を納入した実績をもつブランドである。

特に有名なのは、1950年代にブレゲらととも製造を担ったフランス空軍用クロノグラフの“タイプ20”で、その後継にあたる“タイプ21”にいたっては唯一ドダーヌだけがサプライヤーとして製造を担った。

そんなドダーヌが手がけたこのダイバーズウオッチで特筆すべきは、名門ブランパンのフィフティ ファゾムスでも採用された防水ケースを採用しており、製造当時1000mもの防水性能を実現したことであろう。
堅牢なケース、そして視認性に優れた大振りなインデックスもあいまってミリタリー感満載の重厚な雰囲気も魅力になっている。

【商品詳細】SS(41.5mm径)。自動巻き(Cal.FE4811A)。1992年頃製。36万円。取り扱い店/キュリオスキュリオ 【ショップページに移動】


【そのほかのダイバーズウオッチをでもっと見る】

【すぐにレアポイントがわかった人はロレックスマニア!】エクスプローラーII/Ref.1655編

2024/10/28
by 堀内 大輔

ロレックスの展開するコレクションは、発表時から基本的な意匠を変えずに、性能をアップデートさせているものが大半だ。
こうした“不変さ”も大きな魅力となっているのだが、まったく変わっていないかと言うとそうではなく、細かい部分で見れば文字盤の表記やフォントといった仕様が製造年やサプライヤーの違いなどによって異なっていることがかなりある。
特に、発表当初、いまでは“アンティーク”に分類されるモデルでは、こうした仕様違いがかなり確認されており、それによって相場もかなり違ってくるのだから、アンティークロレックスの購入を検討している人は覚えておいて損はない。


ここで取り上げているエクスプローラーIIの初代モデルRef.1655は、1971年の誕生から84年頃まで製造された。その間、特に文字盤とベゼルの仕様が何度か変更されているのだが、この個体は、そのなかでも希少性が高いといわれる文字盤を備えているのだ。

通称“センタースプリット”と呼ばれるこの文字盤仕様は、6時方向にあるクロノメーター表示にほかとは異なる特徴がある。
2行で記された”SUPERLATIVE CHRONOMETER”と”OFFICIALLY CERTIFIED”の単語間のスペースが、上下段で揃っているのだ(通常は揃っていない)。
ちなみにRef.1655では交換用を含めて7種の文字盤が確認されているが、このセンタースプリットとなっている文字盤が最も希少とされる。もちろんコンディションにもよるが、相場は100万円以上も割高になるというから驚きだ。

【商品詳細】Ref.1655。SS(40mm径)。自動巻き(Cal.1570)。1977年頃製。588万5000円。取り扱い店/コミット銀座 【ショップページに移動】


【エクスプローラーIIをLowBEAT Marketplaceでもっと見る】