
カルティエを代表するモデルであり、同時に角形時計の代名詞的な存在である“タンク”。
その原点である“タンク ノルマル”は、1917年、当時ブランドの担い手だったルイ・カルティエが、フランスの軽戦車“ルノー FT-17”を上から見た形に着想を得てデザイン案をおこしたことは有名だ。
タンクは、後に世界的に流行するアール・デコを先駆けたデザインが人気を博し、今日まで受け継がれる人気コレクションに発展していった。
今回取り上げるのは、1940年代に製造されたタンクだ。
現在のアンティーク市場で流通しているタンクは、1970年代以降に製造された、主にETA製のムーヴメントを搭載したものが圧倒的に多い。対して、これ以前はジャガー・ルクルトなどの高級ムーヴメントを搭載している製造数が非常に少なかったため、愛好家垂涎の的になっている。
この個体は、1917年にカルティエがアメリカ市場を睨んでニューヨークに設立した時計製造会社のEWC(ヨーロピアン・ウォッチ&クロックカンパニー)が手がけたムーヴメントを搭載しており、いわゆる“ヴィンテージタンク”のなかでも希少性が高いモデルだ。
【商品詳細】K18YG(20×28mm径)。手巻き(Cal.8''')。1940年代製。264万円。取り扱い店/プライベートアイズ 【ショップページに移動】
【そのほかのタンクをLowBEAT Marketplaceで見る】

業界唯一のアンティーク時計の専門誌「ロービート(LowBEAT)」編集部が毎週水曜日にお届けしているアンティーク時計初心者向けの入門記事。今回は「リダン」について取り上げる。上の写真は1940年代に製造されたロレックス・バブルバックで文字盤にリダンが施されたものだ。
この「リダン」とは経年変化によって文字盤が汚れたりシミができたりして、それを再塗装するなどキレイに修復して再生された文字盤のことを指す。「リダン」と聞くとどうしてもネガティブなイメージを持たれがちだが、修復しながらも長く愛用する習慣のある欧米では、昔からよくあることだったようだ。
つまり、「リダン」とはオリジナルを基本に、あくまでもキレイに再生された文字盤のことを指しており、いわゆるオリジナルになかったものを意図的に追加したり、他の人気デザインに似せて作ったりする「偽造」品や、個人的に楽しむために元の時計とは異なるデザインや色に変更した「カスタム」品とは違うため、アンティーク時計市場ではリダン品については販売されていても基本問題はない。
ただし、リダン品を販売する場合はユーザーから誤解を招かないよう、それを明記する必要がある。そのためアンティーク時計専門店では商品のタグや説明などにちゃんと「リダン」と明記したうえで販売しているというわけだ。
なお、リダン品については相場よりも安く販売されている。そのため当時のオリジナル性に特にこだわらない人や、ファッションとして少しでもキレイなものが着けたいという人には、選択肢のひとつに加えてもいいのではないかと思う。ただ、購入の場合は必ずアンティーク時計を扱っている専門店で現物を見たうえでの購入をおすすめする。

ここで取り上げるのは、1990年代にフランス海軍で採用されたと思われるダイバーズウオッチだ。
製造したのは、フランスで1857年に創業した時計メーカーのドダーヌ。日本ではあまりなじみのないブランドだが、航空機器のエキスパートとして、NATO軍やフランス軍、イギリス軍などに軍用時計を納入した実績をもつブランドである。
特に有名なのは、1950年代にブレゲらととも製造を担ったフランス空軍用クロノグラフの“タイプ20”で、その後継にあたる“タイプ21”にいたっては唯一ドダーヌだけがサプライヤーとして製造を担った。
そんなドダーヌが手がけたこのダイバーズウオッチで特筆すべきは、名門ブランパンのフィフティ ファゾムスでも採用された防水ケースを採用しており、製造当時1000mもの防水性能を実現したことであろう。
堅牢なケース、そして視認性に優れた大振りなインデックスもあいまってミリタリー感満載の重厚な雰囲気も魅力になっている。
【商品詳細】SS(41.5mm径)。自動巻き(Cal.FE4811A)。1992年頃製。36万円。取り扱い店/キュリオスキュリオ 【ショップページに移動】

ロレックスの展開するコレクションは、発表時から基本的な意匠を変えずに、性能をアップデートさせているものが大半だ。
こうした“不変さ”も大きな魅力となっているのだが、まったく変わっていないかと言うとそうではなく、細かい部分で見れば文字盤の表記やフォントといった仕様が製造年やサプライヤーの違いなどによって異なっていることがかなりある。
特に、発表当初、いまでは“アンティーク”に分類されるモデルでは、こうした仕様違いがかなり確認されており、それによって相場もかなり違ってくるのだから、アンティークロレックスの購入を検討している人は覚えておいて損はない。
ここで取り上げているエクスプローラーIIの初代モデルRef.1655は、1971年の誕生から84年頃まで製造された。その間、特に文字盤とベゼルの仕様が何度か変更されているのだが、この個体は、そのなかでも希少性が高いといわれる文字盤を備えているのだ。
通称“センタースプリット”と呼ばれるこの文字盤仕様は、6時方向にあるクロノメーター表示にほかとは異なる特徴がある。
2行で記された”SUPERLATIVE CHRONOMETER”と”OFFICIALLY CERTIFIED”の単語間のスペースが、上下段で揃っているのだ(通常は揃っていない)。
ちなみにRef.1655では交換用を含めて7種の文字盤が確認されているが、このセンタースプリットとなっている文字盤が最も希少とされる。もちろんコンディションにもよるが、相場は100万円以上も割高になるというから驚きだ。
【商品詳細】Ref.1655。SS(40mm径)。自動巻き(Cal.1570)。1977年頃製。588万5000円。取り扱い店/コミット銀座 【ショップページに移動】
いつも当Webサイトをご利用いただき、誠にありがとうございます。
2012年に創刊した『LowBEAT(ロービート)』は、これまで4月・10月の年2回発行してまいりましたが、このたび雑誌の発売は4月の年1回での刊行に変更することになりました。
これまで『LowBEAT』は雑誌というプラットフォームを中心に情報発信を行なってきましたが、改めて読者の皆様が求める情報提供の形を熟考した結果、雑誌と当サイトLowBEAT Marketplaceという二つの軸で展開することにより、これまで以上に充実した情報発信が行えるという結論に達しました。
今後は雑誌だけでなく、例年8月に開催している「アンティーク時計フェア」、Webサイト、SNSなど様々なメディアで展開してまいりますので、引き続きご愛顧いただきますようお願い申し上げます。
編集長 堀内大輔

はっきり言っていまのロレックスは、現行モデルもアンティークも高嶺の花になっている。現行モデルは頻繁な価格改定と長期的な円安水準に加え、需要の強さもあいまって、2次流通市場では国内定価を大きく上回る状態が続いていることは周知のとおり。アンティークモデルもそれに連れて高騰しているが、現行モデルに比べるとむしろ割安感が感じられるかもしれない。
とはいえ人気のスポーツモデルでダブルネームだ、レアダイアル仕様だといった個体になると、一気に数百万円、数千万円の価格になってしまう。
しかし、こうした高額モデルだけでなく、ちょっと視線を変えればまだまだ手が届きそうな価格帯のロレックスは存在する。狙い目は1950~80年代のベーシックモデル。モデル名でいえば、オイスター、オイスターデイト、オイスターパーペチュアル、デイトジャストあたりだ。さらに言えばエアキングやスピードキングなどもこの対象に含まれる。
この辺のモデルには、サブマリーナーやGMTマスターといった人気スポーツモデルのような派手さはない。顔つきは至ってシンプルで、どちらかというと落ち着いた雰囲気。しかし、それだけにアクがなく、誰が着けてもそれなりに似合うのだ。眺めていると「昔のオトナってこういう時計してたよな」とちょっと懐かしい気分になる。
ロレックスのすごいところは、こうした地味なモデルであってもデザインコードを継承していて、誰が見てもロレックスだとちゃんとわかるところだ。これらは流通量が多いだけに、文字盤のバリエーションも豊富で、こだわって選べば自分好みのルックスをもった個体が見つかるだろう。
機構は非常にシンプルな3針であるし、ムーヴメントやケースの耐久性が高いため、古くても実用クオリティをキープしているものがほとんどだ。調整すれば正確に動くし、ムーヴメントは手巻きならCal.1200系、自動巻きならCal.1500系を選んでおけばまず間違いない。パーツも手に入りやすく、万が一故障しても修理が効く。この辺はロレックスの強みと言える。
予算としては30~50万円くらいを見ておけばいいだろう。ひと昔前なら10万円台でも色々と選べたが、最近はさすがにその価格帯での入手は難しくなった。そういう意味ではこうした低価格モデルも高騰しているのだが、それでもこの予算で上質なロレックスが手に入るのはありがたい。

“ペラトン自動巻き”と呼ばれる優れた自動巻きムーヴメントを開発し、“オールドインター”の愛称でコレクターから支持された往年のIWC。その代名詞的な存在のひとつが、今日まで系譜が受け継がれる耐磁時計“インヂュニア”である。
誕生は1955年。そもそもインヂュニアは高い耐磁性能を備えたパイロットウオッチのマーク11(1948年初出)を民生向けに改めたものだったといわれており、公式の耐磁性能は当時としては破格の1000ガウス(≒8万A/m)もあった。
もっとも、“民生向け”ということでマーク11とデザインが大きく異なり、搭載ムーヴメントも手巻きではなく、当時最新の自動巻きムーヴメントであった。厚みのある自動巻きムーヴメントをさらに軟鉄製のインナーケースでくるんで耐磁性能を確保していたため、ケースも約13mmとやや厚かった。このぷくっとした愛くるしいフォルムも往年のインヂュニアの魅力と言える。
ちなみに当時の価格は350スイスフランと、一般的な自動巻きモデルの約2倍と決して安くはなかった。だが、技師、パイロット、研究職といったホワイトカラー向けを強くうたったモデルのため、価格はあまり問題にならなかったようだ。
【商品詳細】SS(36mm径)。自動巻き(Cal.853)。1963年頃製。66万円。取り扱い店/ケアーズ 【ショップページに移動】

1分間で1回転する秒針。いまではセンターセコンド(中三針)と言って時分針と同じく文字盤の中央にセットされているのが一般的だが、1940年代より以前は中央ではなく、そのほとんどは6時位置の小さな円の中に独立して配置されるスモールセコンド(略してスモセコ)と呼ばれるタイプだった。
理由は単純で、昔の手巻き機械式ムーヴメントに設定されている四つの歯車には1分間に1回転する4番車という歯車があって、それに針を付けるだけで秒表示を設けることができたからだ。ちなみに文字盤中央に設定されている歯車の2番車は1時間に1回転するため分針が付く。
当時にもし秒針を分針と同じ中央位置に設置するには歯車をもうひとつ加えて(出車式またはインダイレクト方式と呼ぶ)4番車の回転運動を中央に伝える技術が必要となる。そのため40年代までは手軽に設置できるスモールセコンドタイプが主流となっていたというわけだ。
上に掲載した時計は1940年代に製造されたイギリス陸軍用の軍用時計である。スイスの名だたる時計メーカー12社(オメガ、IWC、ジャガー・ルクルト、ロンジンなど)が、軍規定のスペックシートに基づいて製造したW.W.W.こと通称ダーティ・ダース、そのオメガ版だ。
本来軍用であれば視認性的にはセンターセコンドのほうが見やすいはずなのだが、陸軍向けの規定ではスモールセコンドムーヴメントが指定されていたためメーカーが違えどもダーティ・ダースはすべてスモールセコンド仕様となっていたのである。
対して同時期にイギリス空軍向けとして支給された軍用時計はセンターセコンドタイプだった。つまりセンターセコンドができなかったわけではないが、陸軍向けは12社ものメーカーが製造を担当しなければ賄えきれないほど製造数が多かったことから生産性を優先してスモールセコンドが採用されたのではないかと言われている。
なお、センターセコンド仕様として設計されたムーヴメントが主流となるのは60年代になってからである。

1945年の誕生以来、ロレックスを代表するモデルとして世界中で愛されるデイトジャスト。
センターセコンドに、小窓式のデイト表示を3時位置に配した文字盤デザインは、いまではごくありふれた3針時計の基本スタイルだが、当時としては新しいスタイルであり、今日まで最新のスペックにアップデートしつつも基本的な意匠を変えずに、80年近くも製造が続けられているロングセラーだ。
そんなデイトジャストで、レア仕様として知られるひとつが“シグマダイアル”と呼ばれるものである。
一見して普通のデイトジャストのように思えるが、文字盤6時のインデックス下をよく見てほしい。
“T SWISS T”の文字を、小文字のギリシャ文字のσ(シグマ)マークが入っていることがわかるだろう。これがずばり“シグマダイアル”と呼ばれるゆえんだ。
1970年代、クォーツ時計の登場によって地位を脅かされたスイス時計界では、その価値をより強調するための戦略のひとつとして、“金素材を用いること”を推進した。
そこで文字盤に金を使用した時計にシグママークを付与して、わかりやすい形で価値をアピールしたというわけである。ステンレススチールケースを採用したモデルで、よくシグママークが入った個体を見かけるのは、まさしく“価値を強調する”という明確な目的があったからだろう。
ちなみにこのシグママークは、ロレックス以外にも、当時設立された金産業振興協会(L'Association pour la Promotion Industrielle de l'Or、“APRIOR”)に所属したパテック フィリップ、IWC、ヴァシュロン・コンスタンタンなどの一部時計メーカーで採用されている。
しかし、実際にはシグママークが定着することなく、ロレックスでは1970年代のみと限られた期間しか採用されなかった(2007年にはAPRIOR自体が消滅している)。それゆえ、今日レアディーテルとして珍重されているのだ。
【商品詳細】ロレックス。デイトジャスト。Ref.1601。SS×WG(36mm径)。自動巻き(Cal.1570)。1973年頃製。72万8000円。取り扱い店/ムーンフェイズ 【ショップページに移動】

1969年、三つの自動巻きクロノグラフムーヴメントがリリースされた。
ゼニスとモバードが手がけた通称“エル・プリメロ”、ホイヤーとブライトリング、ハミルトンらの通称“クロノマチック”、そしてセイコーの“キャリバー6139”がそれだ。
このなかでもっと早く製品化に漕ぎつけたのがセイコーのCal.6139であり、これが事実上世界初の自動巻きクロノグラフムーヴメントといわれている。
ご存じの人も多いかもしれないが、当時のセイコーは諏訪精工舎と第二精工舎という二つの製造拠点を有しており、キャリバー6139を手がけたのは前者。その設計は後に生まれる自動巻きクロノグラフに大きな影響を与えたといわれている。
それに対して、長年ライバル関係にあった第二精工舎が70年にリリースした自動巻きクロノグラフムーヴメントが、今回取り上げるモデルに搭載される7015系キャリバーだ。
ベースとなる自動巻3針ムーヴメントの70系にクロノグラフ機構を追加した7015系は、6139と同じ垂直クラッチとマジックレバーを持つが、ムーヴメントの厚さを5.9mm(6139は6.65mm厚)に留めている。そのため手巻き機構は省かれたが、自動巻きクロノグラフムーヴメントとしては初となるフライバック機構を備えていた。
本作で搭載されるキャリバー7016は、7015の高級版にあたり、フライバック機構に連動する同軸60分積算計を備えている点が特徴だ。
第二精工舎らしい凝った設計で機械式愛好家からの評価も高い7015系だが、名機6139の陰に隠れてあまり目立たないがゆえに、その搭載モデルの相場はそれほど高騰していない。なかには10万円台から狙える個体もあり、軒並み価格が高騰した現代の感覚からすると、非常にお値打ち感がある。
【商品詳細】SS(36.5mm径)。自動巻き(Cal.7016A)。1973年頃製。16万5000円。取り扱い店/Watch CTI 【ショップページに移動】