【通常のロードマチックと“デラックス“は何が違う?】短命に終わったセイコーの名機

2025/04/08
by 菊地 信


今回取り上げるのはセイコー56ロードマチックデラックス。ロードマチックといえば、当時はグランドセイコー、キングセイコーに次ぐ準高級機として位置づけられていた。ロードマチックに搭載されたCal.56系は、特徴的な輪列を採用した薄型のムーヴメントで、いずれも毎時2万1600振動であった。1968年の販売初期にはノンデイトのCal.5601、デイト付きのCal.5605、デイデイト付きのCal.5606がラインナップされていた。対してグランドセイコー、キングセイコーに搭載されたCal.56系は、それぞれヒゲゼンマイの仕様が異なった毎時2万8800振動のハイビートであり、ロードマチックとは差別化が図られていた。とはいえCal.56系自体のベース設計が優れているため、適切なメンテナンスを施せばロードマチックであっても十分な精度が確保できる。

前置きが長くなったが、この56ロードマチック デラックスはその名が示すとおり、通常のロードマチックとは異なる特徴がある。それは、前述したキングセイコーに搭載される毎時2万8800振動のCal.5626が搭載されているという点だ。ケースや文字盤こそ通常モデルとの違いがあまり見られないが、特別さを表に出さない謙虚さが日本人の感性に合うのではないだろうか。立体的なアラビアインデックスや、黒いラインが入った針など、視認性を向上させる工夫も、シンプルながら質感の向上に一役買っている。

56LMデラックスは、クォーツ式腕時計が普及しはじめた70年代、機械式腕時計の生産数が絞られるなか、76年に登場するも翌年には姿を消してしまった非常に短命なモデルだ。しかし、時計としての完成度は非常に高く、量産されていたキャリバーであるためオススメできる。

【写真の時計】セイコーLM デラックス。SS(37mm径)。自動巻き(Cal.5626)。1975年頃製。8万9100円/Watch CTI

文◎LowBEAT編集部

【スピードマスターにも搭載】オールドオメガのクロノグラフは傑作揃い!

2025/03/14
by 堀内 大輔

Cal.33.3CHRO T2/画像:キュリオスキュリオ



オメガのクロノグラフと言うとスピードマスターがあまりにも有名だが、プロフェッショナルラインを確立する前から、オメガにはクロノグラフの伝統があった。その背景にはレマニアとの関係性が大きかったと言える。

オメガは当時の世界大恐慌を乗り越えるべく、1931年にティソなどとSSIHグループを創設して、製造体制の連携を図った。これが現在のスウォッチグループの前身にもなったのだが、翌32年にレマニアがSSIHグループに参画したことで、オメガは質の高いクロノグラフムーヴメントを採用することが容易になった。レマニアは軍用に自社製クロノグラフを納入すると同時に、エボーシュとして他社にムーヴメントを供給する余裕があり、当時のオメガはレマニアへの依存度がかなり高かった。

レマニアベースのオメガのクロノグラフとしては、まず1930年代に生まれたCal.33.CHROが注目に値する。これはレマニアのCal.15TLがベースとなっており、サイズは15リーニュ=33.3mmと当時としてはかなり大きめ。それだけにパーツの配置に余裕があり、リセットハンマーなども肉厚で耐久性が高いものが使用されている。ボタンを押したときのカチッとした感触が心地良く、いまでも評価の高い名機だ。

この流れを受けたオールドオメガのクロノグラフ最高峰が、1942年発表のオメガ名Cal.321(Cal.27 CHRO C12)だ。レマニアのアルバート・ピゲの設計によるもので、サイズが27mm径と小型化されたことで汎用性がアップ。伝統的な巻き上げヒゲやコラムホイールが採用されており、毎時1万8000振動の安定したロービートで優れた精度を叩き出した。このムーヴメントが有名になったのは、スピードマスターに採用されて月面着陸に貢献したという伝説があるからだが、実際はスピードマスターが生まれた1957年以前から、オメガのクロノグラフを代表するムーヴメントとなっていた。
しかもこのCal.321は、2019年に再生産されて現行のスピードマスターにも採用されている点がすごい。現行モデルでは主ゼンマイの長さを伸ばしてパワーリザーブが延長されているが、基本的な設計は80年前と同じ。それだけ設計に先進性があったのだ。

レマニアのクロノグラフは、その優秀さゆえにブレゲなどにも供給されていたが、1981年にレマニア自体がブレゲの傘下に入り、オメガとの関係性は一旦途絶えている。その後にブレゲがスウォッチグループに入ったことで関係が復活しており、両社の関係はかなり複雑な歴史を辿ってきたと言えよう。

オールドオメガのクロノグラフは、そのクオリティを考えれば市場価格はまだかなりリーズナブルだ。1940年代あたりの年代物となると出物は多くないが、それでも製造量が多かったブランドだけに、他ブランドと比べると状態の良い個体を探しやすいと言える。


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【ボブネイル?】文字盤からベゼルに至るまで1970年代に製造されたオーデマ ピゲに施された装飾とは!

2025/03/12
by 堀内 大輔

LowBEATマーケットプレイスに掲載されているアンティーク時計の中から今回は1970年代に製造されたオーデマ ピゲのドレスウオッチを取り上げる。

このモデル、驚くことに文字盤からベゼルに至るまで繊細な装飾がビッシリと施されている。これはボブネイルと呼ばれる装飾で、繊細かつ緻密さがエレガントな雰囲気のため宝飾系ブランドが手掛ける1970年代のドレスウオッチでよく見かける。

ボブネイルとは「靴の鋲釘(びょうくぎ)」の意味で、食器やランプなどヴィンテージのガラス工芸品などでよく見られる装飾で、ボツボツと突起が並んだ感じが靴の鋲釘のように見えることから、ボブネイル装飾と呼ばれるようになったと言われる。

ただ、時計の場合は小さなピラミッド型の四角形が規則正しく並ぶスタイルが多く、そのためクル・ド・パリとも呼ばれている。

さて、ここに取り上げたオーデマ ピゲのドレスウオッチは18金ホワイトゴールド製。ジャガー・ルクルトのCal.920をベースとする自動巻きムーヴメントCal.K2120を搭載する。

両方向巻き上げ式に加えて巻き上げ効率を高めるためにローターに21金を使用しており、機械の仕上げやその造形美もかなり素晴らしい。

わずか2.45mmと当時としては驚異的な薄さを実現したムーヴメントということもあって、18金ホワイトゴールドケースの厚さも6.5mmという薄さだ。それでいて実用的なスクリューバック仕様という点も見逃せない。145万2000円


文◎LowBEAT編集部/時計写真◎プライベートアイズ

【いまじゃ考えられない】世界中が宇宙に目を向けていた1970年代。オメガなど当時流行した異形ケースとは!

2025/03/06
by 堀内 大輔

かつて機械式時計の黄金期と言われていた1960年代までは、そのほとんどがケースは丸形であった。もちろん角形もあったが、その種類は少なく圧倒的に丸形だった。それが70年頃を境にして丸形でも角形でもない個性的かつ斬新な異形ケースが各社から登場するようになったのである。

その頃のスイス時計産業といえば、クォーツ時計が台頭してきたことに加えて、もともと人件費や製造コストが肥大化傾向にあったところへスイスフランの高騰がさらなるに追い討ちをかけていた。

そのため各社は製造コスト削減を強いられていたのである。当然、60年代の黄金期に生産されたものと同等レベルのクオリティを維持することはできなかった。その突破口として新たに見出されたのが、装身具としてのデザイン性だったと言われている。


オメガ スピードマスター マークIII 。Ref.176.002。45万9800円/BEST VINTAGE


こうして70年代には、各ブランドから様々な斬新かつストレンジなデザインが数多く生み出されていった。その代表的なものが、当時、世界中が熱い眼差しを向けていた“宇宙”というキーワードだったのだ。

当時の時計にかつてのSF映画を感じさせる流線形や独創的なフォルムのケースが多いのはこのためなのである。そしてこの時代のデザインワークは、今日、スペースエイジとも言われ、70年代のモデルをコレクションする最大の楽しみとして注目されるようになったというわけだ。

そんな異形ケースのなかでも目立って多かったのが、オメガのスピードマスター マークIII のように楕円を立体化したような、いわゆる卵形ケースだったのである。そして驚くのは、このような斬新なケースフォルムを多くのブランドが実現できているという点だ。まさしく外装の加工技術の高まりが時計の新たな時代のトレンドを加速させたことは言うまでもない。

ちなみに、このスピードマスター マーク III のケースは火山の噴火口にも見えることから愛好家の間ではボルケーノとも呼ばれる。


1970年代の時計をもっとチェック!


【今後入手はますます難しくなるかも!?】オールドロンジンを代表するクロノグラフ

2025/02/28
by 堀内 大輔




現在はスウォッチグループの中堅ブランドという位置付けのロンジンだが、かつては高精度ムーヴメントを得意として、ハイビート機ウルトラクロンで他社を圧倒していた実績がある。さらにマニュファクチュールとして、堅牢性と仕上げの美しさに優れたクロノグラフも多く手がけていた。

モバード、ミネルバ、ユニバーサル・ジュネーブ、エクセルシオパークなど、1920~60年代にクロノグラフムーヴメントを自社製造していたブランドはほかにもあるが、なかでもロンジンは別格の存在だと言える。メンテナンスを考えた設計でありつつ、パーツの配列やその仕上げは非常に念の入ったものであり、いまでも多くのアンティークウオッチファンを魅了している。

オールドロンジンのクロノグラフでも、特に名機の誉れが高いのがCal.13ZNだ。1936年に開発された同社初の腕時計フライバッククロノグラフで、ストップ&リセットで計測を止めることなく、何度もボタンを押さなくても連続して計時ができるフライバック機能は、航空機のパイロット、あるいは陸上競技などスポーツの計測用として、この時代に大きくニーズが高まっていた。

しかし、ただでさえパーツ数の多いクロノグラフにフライバック機構を追加するには、パーツが納まるスペースを確保するのに大いなる苦労があった。Cal.13ZNでは中間車をブリッジに埋め込むなど、かなり大胆な設計を採用している。それでいてパーツは肉厚で耐久性が高く、当時でも相当な製造コストがかかっていたことをうかがわせる。

Cal.13ZNの後を受け継いだ名機が、1947年に発売されたCal.30CHだ。ロンジンのクロノグラフとしては最後の名機と呼ばれるこのムーヴメントは、どうしてもコストが高くつくCal.13ZNの設計を見直したもので、爪を廃したリセットレバーでバネの動作に依存しない設計が成されていた。そのためパーツ配列もわかりやすくなり、メンテナンス性も向上している。


Cal.30CHは1960年代まで製造され続けたが、やはり製造コストの高さはネックになり、その後はクォーツムーヴメントに淘汰されていった。ロンジン自体も83年にスウォッチグループの傘下に入り現在に至っている。

前述したようにオールドロンジンのクロノグラフは、設計自体の美しさに加え、パーツの仕上げも非常にハイレベルで、マニュファクチュールキャリバーとしては最高峰に位置付けられている。ケースもステップベゼルを採用していたり、トレタケと呼ばれる裏ブタに爪が入った防水ケースだったりと、アンティークウオッチとして楽しめるポイントが多い。

市場でも状態の良いオールドロンジンはかなり希少になっているが、昨今の新作時計の値上がりを考えると、このクオリティのクロノグラフがいまの取引相場で手に入るなら、まだ割安感がある。今後はどんどん流通量が減っていくことは間違いないので、狙っている人には早めの入手をおすすめする。

【商品詳細】SS(35mm径)。手巻き(Cal.13ZN)。1940年代製。231万円。取り扱い店/プライベートアイズ


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【オールドオメガ・IWC・ロンジンにクローズアップ】好評の“大全”シリーズ最新作が本日発売

2025/02/27
by 堀内 大輔

定価4,950円(税込)



愛好家から支持される
オメガ・ロンジン・IWCにクローズアップ

業界唯一のアンティークウオッチ専門誌として2012年に創刊した『LowBEAT(ロービート)』で過去掲載し、人気を博した特集を一冊にまとめたスペシャルBOOKの第5弾になります。

今回は、普段使いできるアンティークウオッチとして愛好家からも支持される“オメガ”“ロンジン”“IWC”の3ブランドにクローズアップ。これらブランドがなぜ多くの愛好家から支持を得ているのか。その鍵となるであろう優れたムーヴメントの数々を開発者の視点から掘り下げるとともに、傑作機にもスポットを当てながら、それぞれの魅力を探っています。

愛好家も満足すること請け合いの濃密な内容であると同時に、これからアンティークウオッチを購入しようと考えているビギナーにとっても“指南書”としても役立つ1冊となっています。

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【“金色ハンジャル”にアスプレイの刻印】イギリス軍に贈られたと思われる78年製ロレックス シードゥエラーの中東オマーン仕様

2025/02/26
by 堀内 大輔

写真◎クールヴィンテージウォッチ



ロレックスの別注モデルとして有名なもののひとつに中東系の軍用モデルがある。その代表的なものがアラブ首長国連邦(UAE)とオマーンだ。ここではLowBEATマーケットプレイス内のショップ“クールヴィンテージウォッチ”の商品として掲載されている、とても貴重なオマーン軍仕様のシードゥエラーについて取り上げたいと思う。

中東系の別注モデル最大の特徴は、文字盤に大きく表示される国章である。オマーン仕様の場合は写真を見てもおわかりのように、交差する2本の剣にハンジャルと呼ばれる湾曲した短剣とベルトが描かれたオマーンの国旗にも見られる国章だ。そしてこれを採用したのが2022年まで国王だったカーブース・ビン・サイード(以降サイード)である。

そんな国章があしらわれたこのシードゥエラーだが、通常のオマーンのロレックス代理店によって販売された国章文字盤とは違い、裏ブタにはイギリスの老舗ジュエリーブランド“ASPREY(アスプレイ)”の刻印が施されている。

実のところサイードは、16歳からイギリスに留学し、20歳のときにはサンドハースト王立陸軍士官学校に入学、卒業後はイギリス軍キャメロニアン連隊に配属されている。そして66年に帰国するものの父のサイード・ビン・タイムールに軟禁されてしまう。息子のサイードは70年にクーデターを起し、それをイギリスが支援。結果的に父親を倒しブーサイード家の第14代君主としてオマーン国王となった。

そのため支援してくれたイギリス軍の特殊部隊や貢献者に対して感謝の気持ちとして様々な贈り物をしたと言われている。このシードゥエラーもそのひとつでイギリス軍に贈られたものだったようだ。ただオマーン仕様を作るにはイギリスのロレックス代理店を通さなければならないため、アスプレイの刻印はその証というわけだ。

ロレックス シードゥエラー Ref.1665(1978年製) 価格応相談
文◎LowBEAT編集部/協力◎クールヴィンテージウォッチ