ロレックスが誇る3大発明と言えば、“オイスターケース(防水ケース)”、“パーペチュアル機構(自動巻き)”、そして瞬時に日付けが切り替わる“デイトジャスト”だ。
いずれも、腕時計の実用性を向上させる当時としては革新的な発明であり、今日でもその技術を発展させながら受け継がれている。
このなかでも、当時新興のブランドだったロレックスの名を一躍有名にした発明が、1926年に特許が申請された“オイスターケース”である。
翌27年、ロンドン出身のメルセデス・グライツが、ロレックスの時計を着用したままドーバー海峡の横断遠泳に成功し、その性能を証明したエピソードは、あまりにも有名だ。
以降、ロレックスはほとんどのモデルにオイスターケースを用いて、実用時計ブランドの雄として名声を得ていく。
今回取り上げるのは、そんなオイスターケースの50周年を記念し、1970年代に特別に製作されたオイスターパーペチュアルデイト、Ref.1530である。
文字盤に記念モデルであることを示す文字などが入っているわけではないが、このRef.1530がひと目で特別なモデルであることがわかるポイントが、従来にない角張ったケースである。見るからに堅牢なケースに加え、風防には当時はまだ珍しかったサファイアクリスタルガラスを採用、そしてロレックス自慢の自動巻きムーヴメントを搭載している。
製造数は、一説には1500本ともいわれる希少モデルであり、愛好家から珍重されている。
【商品詳細】Ref.1530。SS(36mm径)。自動巻き(Cal.1570)。1970年代製。258万円。取り扱い店/サテンドール ショップページに移動
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オメガ ランチェロ 金張り PK2990-1 1950年代 830,000円|Curious Curio(キュリオスキュリオ)
業界唯一のアンティーク時計の専門誌「ロービート(LowBEAT)」編集部が毎週水曜日にお届けしているアンティーク時計初心者向けの入門記事。今回は1940年代の時計に多くみられる「くさび形」インデックスについて解説したいと思う。
時刻を読み取るために時計の文字盤上に12個配置されたアラビア数字などの目盛りのことを一般的には “インデックス”と呼ぶ。また“時字(トキジ)”や “アワーマーカー”とも呼ばれる。
インデックスは、オーソドックスな1から12までのアラビア数字以外にも、ローマ数字やドット、そして棒状のバーなど代表的なものがいくつかあり、時分針の形状とともに視認性だけでなく、腕時計の個性を引き立てるデザイン的な要素としてもとても重要な意味をもつ。
今回取り上げた“くさび(楔)形インデックス”の“楔”とは木材や金属で作られたV字形あるいは三角形をした道具である。つまり、くさび形インデックスについて大雑把に言うと先端に向かって徐々に尖っていく形状にデザインされたものについてこう呼ぶ。そのなかで形が三角形のタイプはトライアングルとも呼ばれる。
このくさび形インデックスだが、主に1940から50年代によく使われた。トップに掲載した写真のオメガなど多くのブランドが採用しているが、特に50年代以前のロレックスの手巻きオイスターやオイスターパーペチュアル(自動巻き)で目にすることが多い。くさび形でも様々あるうえ、通常のバーインデックスと違いグッと古典的な雰囲気が楽しめるため、アンティークらしさという点では選択肢のひとつとして一考の価値はあるだろう。
クロノグラフの歴史において非常に重要なムーヴメントメーカーがバルジューだ。
アンティーククロノグラフの名機にはしばしばこのメーカーの機械が搭載されており、いまでもコレクター人気は高い。創設1901年と古い歴史をもち、現在はETAに吸収されたが、その命脈はちゃんと息づいており、多くの時計ブランドに採用されている。
バルジューは前述のように1901年にスイスの時計産業集積地、ジュウ渓谷で生まれた。メーカー名の“Valjoux”も“Vallée de Joux”に由来するものだ。創業者はジョンとシャルルのレイモンド兄弟で、当初はレイモンド兄弟社としてスプリットセコンドクロノグラフなどを開発していた。
飛躍のきっかけになったのは、1914年に開発されたCal.22だ。17石、2カウンターのコラムホイール式クロノグラフ。チラネジ付テンワを備え、振動数は毎時1万8000のロービートで安定した精度を叩き出した。パーツも頑丈で耐久性の高いしっかりした設計が成されており、現在の腕時計向けクロノグラフの祖ともいえる名機だ。16年には小型化されたCal.23へと進化して、こちらも多くのブランドに採用された。
1929年に社名をバルジューに変更し、44年にエボーシュSA(ムーヴメントメーカーの連合体)の傘下に入っている。この時代もバルジューはムーヴメントの小型化を推し進めており、より実用的な製品で高い評価を集めていた。46年にはCal.72を発表。直径29.33mmというサイズで、ブレゲヒゲ搭載の3カウンタークロノグラフを実現した技術力はさすがというほかない。このCal.72はロレックスのデイトナに採用されていたことでよく知られる。ロレックス以外にも、バルジューはパテック フィリップ、ロンジン、ジャガー・ルクルトなど、錚々たるブランドに採用されてきた。
Cal.22、Cal.23、Cal.72あたりがアンティークウオッチファンに注目されているムーヴメントだが、最大のヒット作は1973年にリリースされたCal.7750だ。クォーツショック後に生まれた自動巻きクロノグラフで、効率の良い片方向巻き上げ式を採用。自動巻きムーヴメントにクロノグラフモジュールを追加したいわゆる“2階建て”で、構造はコラムホイール式からカム式へと簡略化。しかし、それだけメンテナンス性が高く、各ブランドによるカスタマイズも容易になっている。1980年代から2000年代にかけてブライトリングやチューダーほか、多くのブランドが採用したロングセラーだ。
アンティークのバルジュー搭載機は評価が高く、市場でもそれなりの価格で取り引きされている。しかし、同じキャリバーであっても、各ブランドによる仕上げの違いなどで、見た目の美しさはかなり異なる。Cal.7750もいくつかのグレードが存在するが、同じように高級仕上げと汎用仕上げのグレード差は意外に大きい。購入時はできれば裏ブタを開けてもらって、仕上げまで綿密にチェックしたい。
業界唯一のアンティーク時計の専門誌「ロービート(LowBEAT)」編集部が毎週水曜日にお届けしているアンティーク時計初心者向けの入門記事。今回はアンティークのパテック フィリップについて解説したいと思う。
手巻きであれば王道の96系
自動巻きならスクリューバック仕様
アンティークのパテック フィリップの場合は、時計自体の作りや性能に対するクオリティが元々かなり高いため、特にどのモデルがいいということはあまりない。極論するとどれでも問題はないと言えるかもしれない。
ただし、レファレンスの種類もかなり多いため購入にあたっては特定のモデルやムーヴメントもさることながら、安くても100万円以上と高額となるため最終的には予算的な面で絞り込むことになるだろう。
そんなオールドパテックで最も人気が高く探している人が多いモデルといえばやっぱり“カラトラバ”である。つまり通称クンロクことRef.96だ。そのためまずは、このカラトラバで探すというのはパテック フィリップを狙ううえでの王道と言える。
このRef.96は下に挙げたように、ムーヴメントを載せ替えながら1932年から71年頃まで実に約39年間も長きにわたって生産された。そのため価格帯もかなり広い。
また96の特徴であるフラットベゼル、そしてケースとラグが一体となった美しいケースフォルムはカラトラバスタイルと呼ばれ、96以外にもそれを受けつぐレファレンスも多い。そのためあえてそちらを狙うという選択肢もある。
これには大きく3タイプにわかれ、10型の小振りな手巻きムーヴメントを搭載した“ベビー・カラトラバ”がRef.438と448。
同じ手巻き12型を搭載し30.5mm径の96よりも大きい35から36mm台の“ビッグ・カラトラバ”はRef.530、570、2508、2509。
そして自動巻きの“カラトラバ・オート”はRef.3403、3438、3439など選択肢も多く一考の価値はある。ただし、実用を考えるなら裏ブタがスクリューバック仕様を選ぶのが得策だ。
【Ref.96(カラトラバ)に搭載された手巻きムーヴメント】
・1935年 Cal.12-120
手巻き12型初の機械。Ref.96にはこのキャリバーを搭載した個体が最も多い
・1938年 Cal.12SC
Cal.12-120をベースに作られたインダイレクト式センターセコンドムーヴメント
・1950年 Cal.12-400
耐震装置を装備した12型の第2世代
・1960年 Cal.27-AM400
12型の3代目。ジャイロマックステンプを備え、振動数も毎時1万9800にアップ
文◎LowBEAT編集部
ここ数年、アンティークウオッチ市場での人気が非常に上がっているカルティエ。もともと時計史において重要なアイコニックピースを多くリリースしてきており、そもそも腕時計自体の祖ともいえるブランドなのだが、そうしたレガシーを背景にしただけにとどまらない人気ぶりだ。
世界でもトップクラスのジュエラーとして、19世紀から王侯貴族や富豪たちの寵愛を受けてきたカルティエが、腕時計を発表したのは1888年のこと。これは懐中時計全盛の時代に女性用のブレスレットの延長として提案したものだったが、1904年には世界初の本格的な腕時計を開発。ブラジルの飛行家アルベルト・サントス=デュモンの「飛行中も時刻を視認できるタイムピースが欲しい」という要望に応え、懐中時計のように胸ポケットから取り出すことなく、腕元に装着できる時計を生み出したのだ。このモデルは1911年に“サントス”として市販化され、これ以降の時計のトレンドは、懐中時計から腕時計に移行していくことになる。
その後のカルティエは、戦車をイメージした“タンク”、モロッコの太守が身につけていた甲冑を思わせる“パシャ”など、センセーショナルなデザインの時計を多くリリース。1960年代にはクルマに轢かれて変形してしまった時計からインスピレーションを得て変形時計のクラッシュを発表。サルバドール・ダリなどシュールレアリズムの影響を感じさせる名作だが、このように奇想天外なデザインを流麗にまとめ上げる構成力もカルティエならではと言えるだろう。もともとジュエラーだっただけに宝石のセッティング能力も高く、ゴールドの使い方も絶妙に上手い。
カルティエは製品ラインナップが広いが、どのモデルも華やかで人の目を引きつけるパワーに満ちている。70年代には比較的価格を抑えた“レ・マスト・ドゥ・カルティエ”という普及シリーズをリリースしており、そのなかのマスト タンクなどは近年までかなりリーズナブルに入手できた。一部の希少モデルを除けば、そのほかも中古のカルティエは価格が比較的抑えめだったこともあり、スタイリストやショップスタッフなどの目ざといファッション関係者が目をつけたのが数年前。アンティークカルティエの注目度は急速にアップし、いまやかなりの高値相場になってしまった。しかも争奪戦も激しく、レアモデルの入手はかなり難しくなっている。
もし古いカルティエの入手を考えているなら、1970~80年代くらいまで対象を広げた方が見つけやすいだろう。すでに1930~40年代のモデルとなると非常に高額になっており、そもそも市場にはほとんど出回らないが、高年式モデルなら流通量も多く、アンティーク的な雰囲気も十分に楽しめる。定番のタンクやパシャであってもバリエーションが多いので、ちょっとレアな個体を入手できれば差別化も図れるだろう。
【商品詳細】トノー。Ref.8379。K18YG(27mmサイズ)。手巻き(Cal.78-1)。1980年代製。149万円。取り扱い店/黒船時計古酒店 [ショップページはこちら]
1918年にスイス・ジュラ渓谷の麓にあるソロトゥルンで生まれたミドー。
100年を超える歴史をもつ同社のマイルストーンというべきモデルのひとつが、34年に発表した“マルチフォート”である。当時まだ黎明期だった自動巻きムーヴメントをいち早く搭載したうえ、防水、耐磁、耐衝撃性能にも優れたマルチフォートは、ミドーの名を一躍広め、今日もブランドを代表するコレクションとして継続している。
そんなマルチフォートのDNAを受け継ぎつつ、クロノグラフモデルとして1940年代半ばに登場したのが、今回取り上げる“マルチセンタークロノ”だ。
もっとも、一見してクロノグラフらしからぬデザインがマルチセンタークロノの大きな特徴だ。
プッシュボタンこそあるが、ご覧のとおり一般的なクロノグラフに見られるインダイアルを備えていないのである。
それではどうやって時間を計測するのかというと、実はセンターに時・分針のほかにクロノグラフ秒針(ブルーの針)と60分積算計針(レッドの針)を配しており、それで計測を行うのだ。余談だが、そのすっきりとした見た目から、当時のミドーの広告ではこのマルチセンタークロノを“ハンサムウオッチ”としてアピールしている。
またマルチフォートと同様に優れた防水、耐磁、耐衝撃性能を有していたが、一方で搭載するムーヴメントは、手巻きのCal.1300であった。これはバルジュー社製ムーヴメントをベースにしており、信頼性の高さにも定評がある。
【商品詳細】Ref.3800。K14YG(34.5mm径)。手巻き(Cal.1300)。1940年代製。121万円。取り扱い店/ケアーズ ショップページに移動
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ロレックスを代表するコレクションである“デイトジャスト”。
その派生モデルとして1950年代半ばに登場したのが、双方向回転ベゼルを持つ通称“サンダーバード”だ。
サンダーバードは、一説にはロレックスのニューヨーク支店が1955年に現地法人に格上げされたことを機に、同社からの提案でアメリカ市場向けにリリースされたものだといわれる。
56年、アメリカ空軍所属のアクロバットチーム“サンダーバーズ”の隊長にして同空軍の英雄でもあったドン・フェリス大佐の引退に際して、その記念品として回転ベゼル付きのデイトジャストが特別発注された。これが大変好評を博し、一般向けにも展開されたといわれており、サンダーバードの愛称はここから付いたというのが通説だ。
現に、日本でも後に販売されるようになるが、当時の日本向けカタログには“ターン・オー・グラフ”と表記されており、サンダーバードというのがアメリカだけの名称だったことがわかる。
今回取り上げるのは、1500系自動巻きを搭載したサンダーバードの3rdモデルに分類されるRef.1625のロレゾール仕様だ。
当初はくさび形インデックスやドーフィン針を採用したクラシカルな趣きだった3rdモデルだが、60年代後半以降、バーインデックスにバトン針というデザインに統一され、70年代後半まで製造された。
ちなみに回転ベゼル付きのデイトジャストは、2004年に”ターノグラフ”として復活したものの、それも現在は生産が終了している。
【商品詳細】Ref.1625/3。SS×YG(36mm径)。自動巻き。1960年代製。67万8000円。取り扱い店/WTIMES ショップページに移動
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業界唯一のアンティーク時計の専門誌「ロービート(LowBEAT)」編集部が毎週水曜日にお届けしているアンティーク時計初心者向けの入門記事。2025年最初の記事は一番に反響の大きかった「何を買ったらいいのか?」ロレックス編の続きを書きたいと思う。
その記事で狙い目ポイントして挙げたのがムーヴメント。手巻き式であれば1200系、自動巻き式であれば1500系を目安に考えるということだった。そこで今回は手巻きの1200系についてもう少し詳しく取り上げる。
前回も触れているが、販売されている時計が手巻きか自動巻きかは簡単に見分けられる。それは文字盤の12時位置に表示されているモデル名にOYSTER(オイスター)の次にPERPETUAL(パーペチュアル)の記載があるかどうかだ。オイスターとは防水ケースを意味し、パーペチュアルとは自動巻き機構のことを指す。つまり手巻きモデルにはこのPERPETUALという文字がなくOYSTERだけなのだ。
さて手巻きのオイスターの魅力は大きく二つある。ひとつは自動巻きに比べて薄くて軽いため着けやすいということ。サイズは30mmのボーイズと34mmのメンズの2種類があり、どちらも小振りのためスーツスタイルにバッチリ決まる。
トップの写真のように、革ベルトタイプだと、スポーティなブレスタイプとは趣がだいぶ異なり、ぐっと大人っぽく落ち着いた印象に変わる。加えて生産期間も50年代から80年代までとかなりのロングセラーだったこともあり、製造数も多く比較的流通量も多い。そのため年代によってはアンティーク色の強いものから、現代に近いベーシックなものまで、デザインや雰囲気もだいぶ変わり選択肢の幅の広さも魅力のひとつだ。
手巻きの1200系はシンプルな設計で壊れにくく、メンテナンス費用も安い
そして二つめは、搭載されている手巻きムーヴメント(写真)が優秀だということ。1200系はそもそもロレックスの自動巻きのベースムーヴメントとして開発されたものの最終形と言われる。そのため完成度は極めて高い。
40年近くも生産されていることからも、いかに完成度が高かったかがわかるだろう。しかも、構造がシンプルなために壊れにくく、メンテナンス費用も抑えられるため、アンティークとはいえ初心者にもリスクは少ないのだ。
この1200系だが、1950年に最初に作られたのはCal.1210(デイト表示付きは1215)。その後1967年頃に改良が加えられてCal.1220(デイト表示付きは1225)に変更された。最大の違いは毎時1万8000振動から毎時1万9800振動に振動数が高められた点だ。もちろん、振動数が高い方が精度は安定する。そのため購入の際はこの点もチェックするといいだろう。実勢価格は革ベルトなら30万円台後半から流通する。
LowBEATマーケットプレイスで手巻きのオイスターをもっと見る
軍需品にはその時代の最先端技術が惜しみなく注ぎ込まれる。時計も例外ではなく、腕時計の進化にはミリタリーウオッチが常に重要な役割を果たしてきた。過酷な状況の戦地でも正確な時を刻む防水性や耐衝撃性、ミッションを完璧に遂行するために不可欠なクロノグラフ機能など、求められる要求基準はハイレベルなのだから、考えてみれば当然の話なのだ。
アンティーク時計市場でも、ご存じのようにミリタリーウオッチの人気は高い。実際にプロが道具として使ってきたという背景が感じられるうえに、タフで無駄のない質実剛健なルックスはやはり魅力的だ。初期のミリタリーウオッチが開発されたのは19世紀後期のことで、当時は懐中時計に保護用のカバーを取り付け、腕に巻けるようにベルトを取り付けられるワイヤーラグを追加したシンプルなものだったが、ボーア戦争や第1次大戦期に軍用腕時計は大きく進化。陸・海・空と部隊が専門化していくにつれて、時計の機能もそれぞれに最適化されたモデルが生まれていった。第2次大戦期になると海軍の特殊部隊用に防水性を高めたモデル、空軍用に耐磁性に優れたアビエーションウオッチなども生まれている。現代に通じるようなダイバーズウオッチやクロノグラフがさらに発展していったのは、第2次大戦以降のことだ。
市場で人気が高いミリタリーウオッチは、第2次大戦期に使われていたもの、あるいは大戦終結後に生まれたものだ。第2次大戦期で特に人気が高いのは、イギリス国防省が陸軍用に発注したW.W.W.(Watch Wrist Waterproof)。発注先はビューレン、シーマ、エテルナ、グラナ、ジャガー・ルクルト、レマニア、ロンジン、IWC、オメガ、レコード、ティモール、バーテックスの12社で、“ダーティー・ダース”の愛称で知られている。仕様は軍の調達基準に基づいているため、どのブランドも似通っており、ブラック文字盤に夜光塗料入りのアラビア数字インデックス、スモールセコンドとシンプルで見やすいデザインだ。ミリタリーウオッチファンにはこのダーティー・ダースを全種類集めるのが夢だという人も少なくないが、特にグラナは製造本数が1000~1500本と群を抜いて少なく、市場にもほとんど出回らない。ほかにもエテルナあたりは現存数が少ない。
第2次大戦後の1950~60年代モデルは、ダイバーズやクロノグラフなど機能的にも充実した個体が多く、いまでも実用できるものが多い。モデルバリエーションが多いので集める楽しみもひとしおだ。この時期から時計は大量生産されるようになって価格も下がったことから、仕様も徐々に簡略化されていった。また壊れたら修理するのではなく、そのまま捨ててしまうというディスポーザブルウオッチが増えていったのは70年代以降のことだ。
ただでさえ過酷な環境で使われることが多かったミリタリーウオッチは、状態が良いままで残っている個体は少なく、それだけで価値が高い。その辺の見極めがなかなか難しいので、特に初心者には、ミリタリーウオッチの扱いに長けたショップで購入するのをおすすめする。
【商品詳細】IWC。マーク10 イギリス陸軍。SS(35mm径)。手巻き(Cal.83)。1940年頃製。93万5000円。取り扱い店/プライベートアイズ [ショップページはこちら]
アンティークのIWCは、“オールドインター”の愛称で広く時計ファンに親しまれている。デザイン的にはシンプルで質実剛健。これはIWCがスイスでもシャフハウゼンというドイツ語圏に本社があることに起因しているのかもしれない。道具としての時計というコンセプトを徹底的に追求しており、見やすいデザイン、高い精度と耐久性、メンテナンスへの配慮などを大事にした設計思想が貫かれている。
オールドインターの世界に魅せられた時計ファンは多いが、初心者にとって狙い目は“ペラトン式”と呼ばれる自動巻きムーヴメントを積んだモデルだろう。1950年から70年代後半に至って製造されたロングセラーで、実用面での秀逸さでIWCの名前を大きく知らしめた傑作だ。しかもいまでも市場での流通量が比較的潤沢で探しやすく、価格も同時代のロレックスの1500系キャリバー搭載機などと比べるとかなりこなれている。質では決して引けを取らないだけに、お値打ち感は高い。
ペラトン式は当時の技術責任者だったアルバート・ペラトンが開発したムーヴメントで、人気を集めつつあった自動巻きモデルの開発が、まだ技術力の高い一部メーカーに限られていた時代の産物だ。製造コストを下げるために組み立ての効率をアップしつつ、耐久性と精度は高レベルをキープするという命題に答えたものだった。爪で中間車を引っかけて巻き上げ効率をアップすると同時に、激しい巻き上げに対応するために摩耗を抑えた設計を導入。さらに巻き上げ用のローターとラチェットを分離設計することで、ローターに耐衝撃性をもたせ、強い衝撃によるトラブルを最小限に抑えることに成功している。パーツは肉厚なものを採用しているため耐久性は高かったが、その設計構造もあって初期のペラトン式はかなり厚みがある。これも世代を重ねるごとに薄型化が図られていった。
最初のムーヴメントCal.85は1950年に発表されており、これはかなりレアだが、その後にCal.852系→853系→854系と進化を重ねて、徐々に設計も洗練されていった。日付け表示付きやハック機能付きなどのバリエーションも生まれており、当時のIWCの豊富な製品ラインナップを支えていた。特にオススメできるのは、ペラトン式の完成形と呼ばれる853系以降のモデルだろう。いまでも状態が良く、十分実用になる個体が多く見つけられる。