圧倒的な高精度を誇るクォーツ式腕時計の台頭によって、スイスの機械式時計産業が窮地に立たされていた1970年代。精度の良い機械式時計の価値が薄れてしまったことに加え、人件費の高騰も相まってコストダウンを余儀なくされていた。そこで多くのメーカーは、当時クォーツ式よりも薄型かつコンパクトであったムーヴメントや、クォーツ式で実現していなかったクロノグラフなどといった機械式ならではの利点を生かしつつ、デザイン面での新しさをアピールする方針へと舵を切った。こうした背景のもと、70年代には多彩なデザインと色彩にあふれた腕時計が次々と誕生したのである。
今回紹介するのは、1970年代に製造されたエニカのジャンピングアワーだ。一見すると、70年代のSF映画で使われていた小道具のようで、とても時計とは思えないデザインだが、文字盤中央に引かれたラインに注目すると、外側からそれぞれ時・分・秒を示していることに気づくだろう。近未来感あふれるスペースエイジデザインが魅力的な1本だ。
まるで座標や時間軸を表しているかのようなこの文字盤は、機械式デジタル表示と呼ばれ、時分針を回転ディスクに置き換えることでそのデザインを実現している。この表示方式はエニカだけでなく、数多くのメーカーで採用され、様々なデザインや表示方法が模索されていたのだ。そうした中においても、エニカのジャンピングアワーは頭ひとつ抜けた存在感を放っていた。
鮮やかな青い文字盤に円柱型のレンズ風防を組み合わせたデザインは、視認性を向上させるとともにSF作品に登場する宇宙船を思わせるような、流線形の一体型ケースもまた魅力的だ。さらに、文字盤とケースは、ともに目立ったサビや腐食が見られない良好なコンディションを保っている。加えて、専用のステンレスブレスレットが装着されている点にも注目だ。
機能面に注目すると、時刻表示が瞬時に切り替わるジャンピングアワー機構を搭載することで、デジタル表示としての判読性も高められている。さらに驚くべきは、電池などを動力に用いるのではなく、汎用の自動巻きムーヴメントを改造してこの機構を実現していた点だ。大型の回転ディスクを、機械式ムーヴメントの強いトルクを生かして稼働させるという発想は、まさに見事な設計と言えるだろう。
ベースムーヴメントには、信頼性の高いアシールド社のCal.2072を搭載しているため、適切な整備を施せば現在でも問題なく使用できるだろう。一点注意したいのは、ジャンピングアワー機構を備える時計で時刻を合わせる際、針の逆回し(反時計回り)を行うと故障の原因となるおそれがあること。必ず時計回り方向(時間が進む方向)のみで針合わせを行うことを忘れないようにしたい。
文◎LowBEAT編集部/画像◎WatchTender 銀座
【写真の時計】エニカ ジャンピングアワー。Ref.119-01-01。SS(37mmサイズ)。自動巻き(Cal.AS2072)。1970年代製。21万8000円。取り扱い店/WatchTender 銀座
今回紹介するのは、1940年代に製造されたオメガのスモールセコンド付き3針モデルだ。具体的なモデル名やシリーズ名は存在しないものの、アイコニックなインデックスや美しいラグが印象的である。深みのある色合いをもつケースは14金ピンクゴールド製で、温もりを感じさせる風合いが魅力的だ。
ムーヴメントには、30mmキャリバー登場前の1929年頃から49年頃までの約20年間にわたって採用されていた、オメガを代表する手巻きCal.26.5T3を搭載している。そのなかでも、この個体に搭載されているものは、耐震装置のインカブロックを備えているため、比較的後年に製造されたモデルであると推察される。非防水ケースであるため使用シーンを選ぶものの、現在においても実用的な性能を備えたムーヴメントだ。
そして何より、この個体の魅力的な点は27mm径の小径ケースにある。凝縮感のある文字盤と、優雅に伸びたラグが腕元をさりげなく彩ってくれる。金ケースならではの存在感が控えめであるため、袖への収まりやすさと相まってビジネスシーンでも違和感なく使用できるだろう。また、女性でも自然に着用できるサイズ感のため、シェアウオッチとして使えるのも嬉しいポイントだ。
文字盤全体に焼けが見られるものの、大きな変色や腐食は見られない。また14金PG製のケースは、ポリッシュによるエッジの落ちと、裏ブタの打痕が見られるが、大きな変形やクラックは見られない。年代相応の経年変化が起きているものの、比較的良好なコンディションを保っている。
6時位置のスモールセコンドとブランド表記のみのシンプルな文字盤の組み合わせは、一見すると玄人向けにも思えるが、アンティーク初心者にもぜひ手に取ってほしいデザインだ。時計の歴史や特徴を表すモデル名がないからこそ、先入観をもたず、オメガ本来の時計作りを味わえるのではないだろうか。
文◎LowBEAT編集部/画像◎黒船時計古酒店
【写真の時計】オメガ スモールセコンド。K14PG(27mm径)。手巻き(Cal.26.5T3)。1940年代製。34万円。取り扱い店/黒船時計古酒店
今回紹介するのは1960年代に、フランスの時計メーカー“リップ”が製造したノーティック スーパーコンプレッサーだ。
リップは1867年にフランス東部の街、ブザンソンで創業した時計メーカーで、現在においても“ノーティック・スキー”や“マッハ”などを製造、販売している。かつては自社でムーヴメントの開発製造も行っており、スイスやドイツとは異なる、独特の設計のムーヴメントを製造していた。
また、1940年代後半に製造した手巻きムーヴメントは、当時共産圏にあったチェコスロバキアの腕時計製造にも影響を与えるほどの生産性と完成度の高さを誇っていた。ほかにもイギリスの元首相ウィンストン・チャーチルへ贈呈されたレクタンギュラー型のT18も同社を代表するモデルとして時計史に名を刻んでいる。
リューズが二つ付いた独特なケースは“スーパーコンプレッサー”と呼ばれ、アンティーク愛好家の間でも高い人気を集めている。ただし、リューズが二つ付いているすべてのケースがスーパーコンプレッサーケースと呼ばれるわけではない。正式には、防水ケースの製造を得意としていたEPSA社が製造したケースであり、水圧がかかればかかるほど裏ブタがケースに押し付けられ、気密性が高まる構造を採用しているものを“スーパーコンプレッサーケース”と呼ぶのだ。
しかし、製造から半世紀以上が経った現在では、裏ブタやリューズパッキンの劣化が考えられるため、ダイビングに耐えうる防水性は期待できない点に注意したい。
ムーヴメントには自動巻きのCal.R153を搭載しており、耐衝撃装置にはインカブロックを採用している。また、2時位置のリューズ操作でインナーベゼルも問題なく操作できる状態だ。ケースのコンディションに目を向けると、多少の小傷はあるものの、全体的にエッジが残っており、オリジナルのシェイプを保っている。ブラックミラーの文字盤は、経年変化によるブラウンチェンジが見られるものの、目立つ傷は見られない。
近年では、このスタイルをオマージュし復刻したモデルも増えているが、ぜひオリジナルの時計にも注目してみてほしい。アンティークならではのバランス感や凝縮感は、マニア必見の仕上がりだ。
文◎LowBEAT編集部/画像◎キュリオスキュリオ
【写真の時計】リップ スーパーコンプレッサー。SS(36mm径)。自動巻き(Cal.R153)。1960年代製。38万円。取り扱い店/キュリオスキュリオ
日本の時計産業は、世界的に見ても後発であったが、戦後の経済成長と企業、職人、設計士たちの努力によって、現在では世界有数の時計生産国へと成長した。他国と比較しても尋常ではないスピードで研究開発が進められ、その過程でセイコー、シチズン、オリエントによって数えきれないほどのムーヴメントが開発された。そのなかにはいまなお名作として語り継がれるムーヴメントも数多く誕生している。そこで今回は、国産自動巻きの黎明期から成熟期にかけて製造された、特徴的な自動巻き機構を備える腕時計を紹介する。
まず1本目はセイコーのスポーツマチックだ。
1956年に初の自動巻き腕時計を製造したセイコーであったが、これはあくまでもスイス製のムーヴメントを参考にしたものであったうえ、部品点数や製造コストの面から高価になってしまい、一般層にはあまり普及しなかったとされている。そこで、自動巻きモデル第2世代に当たるジャイロマーベルでは “マジックレバー”と呼ばれる2股の爪とラチェット車を組み合わせたシンプルな構造によって両方向の自動巻きを低コストで生産することを可能にしたのだ。
そして今回紹介するスポーツマチックも、このマジックレバーを搭載したものであり、後の“セイコースポーツマチック5”、現在のセイコー5の源流にあたるモデルなのだ。
この個体は1961年頃に製造されたもので、当時は若者を中心に人気を博したとされている。手巻き機構を廃することでコストダウンを図った設計が特徴的で、後のセイコー5シリーズにも受け継がれている。マジックレバーによる巻き上げ効率も十分で、始動時に数十回振る必要があるものの、歩行を伴う日常動作だけで1日は確実に動作するはずだ。
【写真の時計】セイコー スポーツマチック。GP(37mm径)。自動巻き。1961年頃製。2万8800円/WTIMES
次に紹介するのは、オリエントのグランプリ64だ。
圧倒的な石数を誇るこのモデルは、1964年の東京オリンピック開催にあわせて、ムーヴメントに64個の石(人工ルビー)を使用したものであった。後にグランプリ100という100石仕様の製品も登場するが、どちらもすべての石がベアリングとして機能するわけではなく、半分以上は飾りとして使用されていたそうだ。
そんな同モデルの自動巻き機構には、IWCのペラトン式に似た構造が採用されている。偏心カムとローラー、ラチェット歯車の配列は、ほぼペラトン式自動巻きと同様であり、オリエントはIWCに倣って自動巻きを開発していたことがうかがえる。
また、力強いラグとインデックス、厚みのある防水ケースからもIWCの影響を感じることができる。裏ブタのメダリオンが特徴的なオリエントの高級機だ。
【写真の時計】オリエント グランプリ 64。SS(38mm径)。自動巻き(Cal.676)。1960年代製。16万8000円/ジャックロード
最後に紹介するのは、1971年に製造されたグランドセイコー 5646-7010だ。諏訪精工舎が製造したモデルであり、愛好家の間ではキャリバー名から“56GS”として親しまれている。今回取り上げた時計のなかで最も近代的な設計をもち、薄型かつ高精度である点が大きな特徴だ。
このムーヴメントは、自動巻き機構に切替車(リバーサー)式を採用しており、省スペースかつ高い巻き上げ効率が特徴だ。主にスイスのメーカーが積極的に採用していた方式で、マジックレバーを主軸に置いていた諏訪精工舎としては斬新なムーヴメントであった。この自動巻き機構の利点を生かすために、通常では分針の役割をつかさどる2番車を中心からオフセットし、空いたスペースに自動巻き機構を埋め込むことでムーヴメントの薄型化に成功している。
【写真の時計】セイコー グランドセイコー。Ref.5646-7010。SS(36mm径)。自動巻き(Cal.5646)。1971年頃製。7万6800円/WTIMES
いまでは当たり前となった自動巻き機構だが、現在に至るまでには、様々な試行錯誤が重ねられてきた。アンティーク市場には、いまとなっては非効率的とされる自動巻き機構も存在するが、それと同時に、奇抜なアイディアや設計が光る時計も数多く見受けられる。
ぜひ、誰かに自慢したくなるような、ユニークな機構を備えた一品を探してみてほしい。
文◎LowBEAT編集部
今回紹介するのはロレックスのGMTマスター Ref.1675だ。現在でも人気のスポーツモデルとして注目を集める同シリーズは多彩なバリエーションを揃えており、初代モデルから高級路線を意識した金無垢仕様が展開されていた。
GMTマスターが登場した1950年代当時、第2次世界大戦で培われた航空技術が民間へと下り、ジェット旅客機の運用が活発になっていく過程で、国際線パイロットのための腕時計が求められていた。ロレックスはこのようなニーズを予見していたかのような、世界24地域のタイムゾーンを表示できるワールドタイムモデルを発表していた。そしてこの実績もあってか、53年にはパン・アメリカン航空がロレックスにパイロット用腕時計の開発を依頼したのだ。こうして54年に発表、55年に発売されたのが初代GMTマスター、Ref.6542であった。
ここで取り上げるGMTマスターRef.1675は、セカンドモデルにあたり、シリアルナンバーから1970年ごろに製造された個体だと思われる。20年以上にわたり製造されたロングセラーモデルであるため、初代モデルに比べて現存個体が多く、仕様違いなどの選択肢が多いことも魅力のひとつだ。ブレスレットは、巻き込んだステンレス板をリベットで接合した構造が特徴的で、通称“リベットブレス”として愛好家の間で親しまれている。現行品に採用されている無垢ブレスレットと比べると、強度の面ではやや劣るものの、軽量で腕なじみの良い装着感が大きな魅力だ。
また、長年の使用や複数回にわたる研磨により、ケースが痩せてしまい、オリジナルの形状を保っていない個体も多い中で、この個体は比較的オリジナルに近いフォルムを維持している。なかにはヘアライン仕上げの薄れや、エッジのダレが見られる個体も少なくないため、外装の状態が気になる人は、購入前にしっかりと確認しておきたい。
そしてなにより、この個体で特徴的なのが、経年変化によって淡い色合いに退色したベゼルインサートだ。これは、アルマイト処理が施されたアルミ製ベゼルによく見られる変化で、近年では“フェードベゼル”とも呼ばれ、アンティークならではの風合いとして人気を集めている。現行のセラミックベゼルには見られない、独特の質感が大きな魅力だ。
ムーヴメントにはロレックスのなかでも名作と名高いCal.1570を搭載。精度と耐久性に優れた設計が特徴的で、ヒゲゼンマイに製造の難易度が高い巻き上げヒゲを採用するなど、精度の向上を目的とした設計を積極的に採用したキャリバーであった。
注意点として、ロレックスのムーヴメントは、油切れが起きても問題なく稼働してしまう場合が多いため、時間の進みや遅れ、自動巻きローターからの異音、リューズ操作の違和感を覚えた際には早期のメンテナンスをおすすめしたい。修理業者や時計販売店によれば、不動状態になってから持ち込まれた個体は深刻なパーツの損耗や破損を起こしている場合が多く、修理費用が高額になってしまうとのことであった。高額な修理を避けるためにも、時計の不調を感じた場合にはかかりつけの時計店に相談してみてほしい。
現行品のようなハードユースには向かないものの、GMTマスターは現在でも日常使用に十分耐えうるスペックを備えている。アンティークならではのフェードベゼルが控えめな雰囲気を演出し、ビジネスシーンからカジュアルシーンまで幅広く活躍する、デイリーユースに最適な1本だ。
文◎LowBEAT編集部/画像◎サテンドール
【写真の時計】ロレックス GMTマスター。Ref.1675。SS(40mm径)。自動巻き(Cal.1570)。1970年頃製。277万2000円/サテンドール
今回は国産時計メーカーがスイスの時計産業に対抗するために開発を進めていたハイビートのムーヴメントを搭載した時計を紹介する。
そもそもハイビートと呼ばれるムーヴメントは、機械式腕時計の精度をつかさどるテンプというパーツが、一般的に毎時2万8800振動(毎秒8振動)以上のペースで動くもののことを指し、それ以下の振動数のものをロービートとして区別している。当時のセイコーはスイスの天文台コンクールへの参加をとおして、振動数の向上、つまりハイビート化こそが時計の高精度化につながるものだと確信していたのだ。
ここで取り上げるのは、亀戸の第二精工舎が製造したハイビートの手巻きムーヴメント、Cal.4500Aを搭載した懐中時計である。
当時、手巻き式のハイビートムーヴメント自体が世界的にも珍しかったが、なかでも毎時3万6000振動(毎秒10振動)で量産されていた手巻きムーヴメントは、今回紹介するセイコーのCal.45系と、レディース用のCal.1964、諏訪精工舎のCal.5740Cなど、決して多くは存在しなかった。
既存のムーヴメントをベースにハイビート化していた諏訪精工舎のCal.5740Cと比較すると、Cal.4500Aは斬新な機械設計を取り入れており、歯車の数や特殊なレイアウトなどから、精度を出すことに特化した設計のムーヴメントであることがうかがえる。秒針を止めるハック機能も備えられているため、精度の高さをいかんなく発揮できるだろう。
もともとはグランドセイコーやキングセイコーといった高級モデルに搭載されていたムーヴメントだが、銀無垢ケースに納められた懐中時計モデルも一定数が販売されていたようだ。一見するとごく普通の懐中時計に見えるが、実際には高精度ムーヴメントを搭載しており、“羊の皮をかぶった狼”のような凄みを備えている。
銀無垢ならではのずっしりとした重量感は、ポケットから取り出すたびに特別な存在感を放ち、この懐中時計がただの実用品ではないことを感じさせてくれる。銀無垢ケースであるため、酸化による変色は見られるものの、それがかえって落ち着いた風合いを醸し出しており、長く使い込むほどに味わいが増すのも魅力のひとつだ。セイコー純正のシルバーチェーンとレザーカバーが付属している点にも注目したい。
【写真の時計】キングセイコー 懐中時計。Ref.45-2000。SV(43mm径)。手巻き(Cal.4500A)。1969年頃製。11万円/BQ
8月2日(土)・3日(日)で開催された「第6回 アンティーク時計フェア in 銀座」が無事終了いたしました。
心配されていた台風の影響も少なく、たんさんのお客様にご来場いただき、大盛況のうちに終えることができました。
暑い中、会場まで足をお運びいただき、誠にありがとうございます。
2026年にも開催を予定しておりますので、皆様のまたのご来場をお待ちしております。
LowBEAT アンティーク時計フェア in 銀座 実行委員会
The 6th Antique Watch Fair in Ginza, held on Saturday, August 2nd and Sunday, August 3rd, has concluded successfully.
Contrary to concerns, the typhoon had little impact, and many customers attended.
Thank you very much for making it to the venue despite the heat.
We are planning to hold the fair again in 2026. We look forward to seeing you again.
明日8月2日(金)・3日(日)に開催が迫るアンティーク時計フェアin銀座。今回はこのフェアでぜひ確認しておきたいブランドの魅力を紹介する。
注目ブランド1【ロンジン】
現在はスウォッチグループ属し、中堅クラスのブランドとして位置づけられているロンジン。だが、かつてはクロノグラフや軍用時計を数多く手がけてきたスイスの名門ブランドとして名を馳せていた。
ロンジンの堅牢さと高精度を追求した時計作りは高く評価されており、大戦中の旧日本軍パイロットもロンジンの腕時計を使用していたという逸話も残るほどだ。おすすめのモデルは定番の手巻き時計である通称“トレタケ”や、フライバック機構を備えたクロノグラフであるCal.30CH搭載モデル、ロンジン初の自動巻きコレクションであるコンクエストや、ハイビートムーヴメントが特徴的なウルトラクロンなどが挙げられる。ロンジンの製品は全般的に完成度が高く、整備さえ行われていれば、どの時計であってもおすすめできる。
【写真の時計】ロンジン センターミニッツカウンター。SS(37.5mm径)。手巻き(Cal.12.68Z)。1940年代製。360万円/取り扱い店:キュリオスキュリオ
注目ブランド2【セイコー】
1881年に服部金太郎が開業した服部時計店から始まり、いまや世界有数のマニファクチュールブランドへと成長を遂げたセイコー。1960年代にはスイスの天文台クロノメーター コンクールに参加し、67年には2位を獲得するほどまでに成長していた。そんな同社は、実用性と精度に優れた製品を数多く輩出し、日本の時計業界を支える存在であった。とりわけ60年代から70年代にかけて生産された機械式腕時計の完成度は非常に高く、いまなお名作として語り継がれる腕時計が数多く登場した。
その中でも、フラッグシップモデルとして販売されていたグランドセイコーやキングセイコーは、外装、ムーヴメントの完成度が非常に高いため、万人におすすめできる。また、スピードタイマーやダイバーズウオッチなど、スポーツモデルも充実しているため、自分好みのデザインを見つけやすいのも嬉しいポイントだ。一方でセイコー独自の自動巻き機構であるマジックレバーを採用したマチックシリーズやファイブスポーツなども、手ごろな価格で楽しめるモデルが多く、ビギナーにもおすすめしたい。また、クォーツ式腕時計のパイオニアでもある同社のクォーツムーヴメントを搭載した70年代から80年代にかけての製品も高品質であるため要チェックだ。
【写真の時計】グランドセイコー 1st。GP(35mm径)。手巻き(Cal.3180)。1963年製。71万5000円/取り扱い店:BQ
注目ブランド3【シチズン】
1918年に創業し、国産の他メーカーと開発競争を重ねながら成長を続け、国産腕時計の実用性を高めてきたシチズン。戦後は耐衝撃装置のパラショックや防水機能のパラウォーターなどを積極的に採用することで、よりいっそう実用的な腕時計を開発していた。薄型手巻きのデラックスや外周式自動巻きローターを採用したジェット、グランドセイコーに対抗するために製造されたシチズン クロノメーターや国産メーカーで初めてクリスタルガラスを採用したクリスタルセブンなど、数多くの名作を生み出してきた。
どうしてもセイコーの陰に隠れがちな同社だが、海外メーカーにも劣らない外装デザインや合理的な機械設計など、同じ腕時計であってもセイコーとは異なったアプローチが魅力的だ。
注目のモデルは、高精度を追求したシチズン クロノメーターやクロノマスターシリーズ、防水性を高めたパラウォーターケースを採用したモデル全般、頑丈なことに定評のあるホーマーシリーズなどが挙げられる。また、自動巻きムーヴメントも独特であり、外周式ローターのジェットやクリスタルセブン、レオパールなど、魅力的なモデルが豊富にあるため、ぜひ探してみてほしい。
【写真の時計】シチズン クロノメーター。GP(37mm径)。手巻き。1963年製。32万8000円/取り扱い店:時左衛門
注目ブランド4【オリエント】
国産メーカーの三男坊として語られることの多いオリエント。ムーヴメントの技術面ではセイコー、シチズンに遅れをとっていたため、薄型のムーヴメント開発や外装に注力した大胆なデザインの腕時計を数多く生み出したブランドだ。
おすすめのモデルは、手巻きのオリエント グランプリやグランプリスペシャル、スイマーなどの正統派デザインから、奇抜なカットガラスが目を引くクロノエースやハイエース。スポーツ系デザインのキングダイバーやオリンピアカレンダーなどが挙げられる。
【写真の時計】オリエント ファイネス。SS。自動巻き。1960年代製。22万円/取り扱い店:BQ
注目ブランド5【ティソ】
現在はスウォッチグループのエントリーグレードに位置しており、手ごろな時計を数多く手がけているティソ。アンティーク市場では高品質なモデルが数多く存在し、海外を中心にコアなファンが多いブランドだ。かつてはオメガと姉妹会社のような関係にあり、1930年にオメガと合併し、SSIHを設立していた。そのため、一部モデルではオメガとムーヴメントを共用したものも存在している。その後、このグループにレマニアも参入することで、レマニアのクロノグラフムーヴメントを搭載したモデルも登場する。
注目のモデルは、1930年に発表された世界初の耐磁時計“アンチマグネティック”や手巻きのクロノグラフ、防水ケースが特徴的なシースターシリーズやPR516など、日常生活での使用に最適なスペックを備えた時計が多い。アンティークウオッチの実用を考えているユーザーにはぜひチェックしてもらいたいブランドだ。
【写真の時計】ティソ T12。SS(37mm径)。自動巻き(Cal.794)。1960年代製。18万8000円/取り扱い店:Watch Tender 銀座
注目ブランド6【エテルナ】
現在、数多くの自動巻き腕時計に搭載されているETAベースのムーヴメントだが、その始祖とも呼べるムーヴメントを開発したのがエテルナだ。自動巻きローターの軸にボールベアリングを世界で初めて採用したことで知られ、後のETA2824やETA2892キャリバーに大きな影響を与えている。このほかにも、第2次世界大戦中のイギリス陸軍に軍用時計を納品しており、W.W.W.シリーズ、通称“ダーティ・ダース”を製造した1社としても有名だ。また、チェコスロバキア空軍にも軍用時計を納品していた。
注目のモデルは、自動巻きのエテルナマチックやW.W.W.シリーズ、防水機能を強化したコンチキなどが挙げられる。
【写真の時計】エテルナマチック コンチキ。SS(34mm径)。自動巻き。1960年代製。79万2000円/取り扱い店:プライベートアイズ
注目ブランド7【ジャガー・ルクルト】
19世紀の始めに創業した高級時計の製造ブランドで、数々の発明やパーツを開発してきた。現在まで同社を代表するモデルとして、レベルソやメモボックスなど、アイコニックなモデルが数多く存在している。ラグジュアリーな印象を受けるブランドだが、かつてはイギリス陸軍向けにW.W.W.、通称“ダーティ・ダース”の製造を担う1社として軍用時計を納品していたのだ。アンティークのジャガー・ルクルトには、シンプルで繊細でありつつも、実用的な時計が数多く存在していた。
その中でも注目のモデルは、アラーム機能を備えた手巻き、もしくは自動巻きのメモボックスシリーズや、バンパー式自動巻きのムーヴメントを搭載したモデルなど、多岐にわたる。製造された当時の、修理しながら使い続けるという設計思想が反映された堅牢なムーヴメントは、アンティークならではの魅力と言えるだろう。
【写真の時計】ジャガー・ルクルト メモボックス。Ref.E855。SS(37mm径)。自動巻き(Cal.815)。1960年代製。58万8000円。取り扱い店/WatchTender 銀座
なお、今回紹介した商品を取り扱うキュリオスキュリオ、BQ、時左衛門、WatchTender 銀座はアンティーク時計フェアにも出店しているため、会場で現物に出合える可能性も。ぜひ足を運んでチェックしてほしい。
文◎LowBEAT編集部
「LowBEAT Marketplace」には、日々、提携する時計ショップの最新入荷情報が更新されている。
そのなかから編集部が注目するモデルの情報をお届けしよう。
今回紹介するのはロレックスのデイトジャスト Ref.1603だ。
36mm径のコンパクトなオイスターケースにフルーテッドベゼル、ジュビリーブレスレットを組み合わせた王道のスタイルだ。文字盤のネイビー色が落ち着いた印象で、シーンを問わずに活躍できるだろう。インデックス外周のクリーム色に焼けたトリチウム夜光が程よいアクセントになっている。
現行のロレックスを見慣れた人からすると、スリムな形状やヨレたブレスレットから、どこか頼りない印象を受けるかもしれない。しかし、立体感のある文字盤のロゴプリントや磨きこまれた針とインデックスなど、現行品とは異なるベクトルの魅力が詰まっているのだ。
細かいステンレス板を巻いた形状が特徴的なブレスレットは巻きブレスとも呼ばれ、中空であるため非常に軽量で通気性にも優れている。強度的には現行品と比較すると大きく劣るが、時計本体の軽さも相まって、簡単に破損することはないだろう。ただし、定期的なメンテナンスや負担をかけない使い方を心掛ける必要がある。
高い防水性を誇るオイスターケースの中にはロレックスの自社製Cal.1570を搭載。精度をつかさどるヒゲゼンマイに、姿勢差が生じにくい巻き上げヒゲを採用し、従来の緩急針ではなく、テンプの外周に設けられたマイクロステラスクリューによって精度調整を行うなど、精度の向上を目的とした特殊な設計を積極的に採用したキャリバーであった。デイトの早送り機能は備えていないものの、そのシンプルな構造ゆえに故障やトラブルが少なく、現在でも名機として語り継がれている。
注意点として、ロレックスのムーヴメントは、油切れが起きても問題なく稼働してしまう場合が多いため、時間の進みや遅れ、自動巻きローターからの異音、リューズ操作の違和感を覚えた際には早期のメンテナンスをおすすめしたい。修理業者や時計販売店によれば、不動状態になってから持ち込まれた個体は深刻なパーツの損耗や破損を起こしている場合が多く、修理費用が高額になってしまうとのことであった。高額な修理を避けるためにも、時計の不調を感じた場合にはかかりつけの時計店に相談してみてほしい。
ロレックスと言えば、スポーツ系のサブマリーナーやエクスプローラー、デイトナなどが注目されているが、デイリーユースを考えている場合には、程よいサイズで装着性の良い、デイトジャストやオイスターパーペチュアルがおすすめだ。
文◎LowBEAT編集部/画像◎ムーンフェイズ
【写真の時計】ロレックス デイトジャスト。Ref. 1603。SS(36mm径)。自動巻き(Cal.1570)。1970年代製。74万8000円。取り扱い店/ムーンフェイズ
8月2日(土)・3日(日)に開催が迫る、LowBEAT主催によるアンティーク時計フェア in 銀座。今回はこのフェアでぜひ確認しておきたいメーカーやモデル、人気ブランドの魅力にクローズアップしたい。
注目ブランド1【ロレックス】
言わずと知れた高級時計ブランドとして、国内外を問わず高く評価されているロレックス。資産性の高さや転売目的での話題ばかり目についてしまうが、腕時計としての完成度の高さこそがロレックスの真価と言えるだろう。また、探検家や研究者、映画作品やドラマなどで著名人が着用したエピソードが数多く残されている点も、ブランドの歴史に深みをもたせている。
堅牢かつ高い防水性を誇るオイスターケースと、耐久性と精度に優れた自社製のムーヴメントなど、実用性に特化した設計がユーザーからの信頼を得て、同社の高い地位を築いたのだ。
【写真の時計】ロレックス GMTマスター。Ref.1675。SS(40mm径)。自動巻き(Cal.1570)。1970年代製。278万3000円/取り扱い店:コミット銀座
おすすめのモデルはオイスターケースを採用したモデル全般だ。オイスターパーペチュアルやサブマリーナー、GMTマスターやデイトナ、エクスプローラーなど、ここでは紹介しきれないほどのシリーズに多彩なバリエーションが存在する。どのモデルも適切なメンテナンスさえ施されていれば、現在でも十分な性能を発揮するだろう。多彩な選択肢が存在するため、自分好みのデザインや予算からチョイスができるのも同社の楽しみ方のひとつと言える。時計ビギナーから玄人まで幅広く楽しめる、懐の深いブランドだ。
注目ブランド2【オメガ】
こちらも、スピードマスターやシーマスターなど、歴史的名作を数多く輩出してきた名門ブランドだ。かつて同社は、時計の精度を競う天文台コンクールに参加して好成績を残しており、機械式腕時計の高精度化に注力した製品を数多く製造してきた。
【写真の時計】オメガ イギリス陸軍 W.W.W.。SS(35mm径)。手巻き(Cal.30T2)。1940年代製。66万円/取り扱い店:キュリオスキュリオ
その中でも注目のモデルは、同社の傑作ムーヴメントとして語られる30mmキャリバー搭載モデルやシーマスター、コンステレーションだ。
熱烈な時計愛好家からすれば、定番すぎて退屈に感じてしまうかもしれない平凡なチョイスだが、安定した品質や精度はアンティークウオッチのなかでも光るものがある。精度と耐久性を重視したムーヴメントの設計や素材選びは、オメガに唯一無二の個性を与えているといっても過言ではないだろう。特に、1940年代から60年代にかけて製造された個体は、シンプルで美しいデザインと実用品としての堅牢さを兼ね備えているため、いまなお高い人気を集めている。
注目ブランド3【IWC】
時計愛好家の中では高い認知度を誇るIWC。手巻き式の名機Cal.83や、軍用時計の開発時に得られた耐磁技術を民生品に転用したインヂュニア、紳士的な装いのシャフハウゼンやスポーツユースのヨットクラブなど、数多くの名作を生み出してきた。
【写真の時計】IWC シャフハウゼン。Ref. R810AD。SS(34.5mm径)。自動巻き(Cal.8541B)。1968年製。29万8000円/取り扱い店:ブランド腕時計専門店ムーンフェイズ
どのモデルも高い実用性を備えており、1950年代に誕生したラチェット機構を応用したペラトン式の自動巻き機構は、高い巻き上げ効率と耐久性からIWCの中でも高い人気を集めている。手巻き、自動巻きともに、堅牢性を重視した設計がIWCの魅力と言えるだろう。
玄人向けの印象のある同社だが、ケースのサビやムーヴメントの状態にさえ気を遣えば、万人にオススメできるブランドだ。
なお、今回紹介した3本を取り扱うショップはアンティーク時計フェアにも出店しているため、会場で現物に出合える可能性も。ぜひ足を運んでチェックしてほしい。
文◎LowBEAT編集部