【騎士の甲冑のようなブレスレットが魅力的!】ドレスとスポーツを両立させたカルティエの名作

2025/07/29
by 菊地 信

今回紹介するのは、カルティエが1980年代に製造したサントス オクタゴンだ。その名が示すとおり、8角形のビス止めされたベゼルが特徴だ。

80年代当時のラグジュアリースポーツの流行を感じさせるデザインだが、カルティエ独特の上品さにあふれた雰囲気をまとっている。サントスの絶妙なバランス感はベゼルやブレスレットのビスに使われているゴールドカラーが、ステンレスケースやブレスレットのソリッド感を和らげることで成立しているのではないだろうか。
それに加え、艶やかな白文字盤とローマンインデックス、青焼きの針を組み合わせることで、カルティエらしいエレガントさとクラシックさを両立させた、唯一無二のアイコン的な顔立ちに仕上げている。また、ケースには裏ブタのない構造を採用しており、本格的なスポーツユースを意識したモデルであったことがうかがえる。

特徴的なブレスレットにも注目したい。
ピンを使用せずに独特な形状のコマを連結する構造が目を引く。このような複雑なコマの形状を、加工の難しいステンレスの無垢材から高精度で削り出す技術は、70〜80年代にかけての金属加工技術の進化があったからこそ実現できたのだろう。

そして、このモデルを購入する際に注意が必要なのが、ベセルを固定するビスやブレスレットのサビと固着だ。メンテナンスを怠り、ベゼルのビスなどが固着してしまった場合、オーバーホールが困難になり、非常に高額な修理を必要とする場合がある。そのため、販売店や販売者に直近のメンテナンス歴を確認することをおすすめしたい。

今回紹介した個体については、2025年6月にメーカーのコンプリートサービスを受けており、文字盤、リューズ、針が交換済みであるため、安心して購入ができるだろう。また、使用後には必ず汗を拭きとることでサビの発生を軽減できるはずだ。中古品で相場より安価な個体を見つけた際も、安易に飛びつかず、コンディションと今後のメンテナンス費用を慎重に考慮すべきだろう。
カルティエの腕時計を代表するアイコンモデルとして人気を博したサントスの洗練されたデザインは、長く愛用できる1本として、非常におすすめだ。

文◎LowBEAT編集部/画像◎まじめなとけいや かめ吉

【写真の時計】カルティエ サントス オクタゴン。Ref.2966。SS(28mmサイズ)。自動巻き。43万9850円/まじめなとけいや かめ吉

【オメガやIWCだけじゃない】この夏、狙い目の隠れた名作実用時計 No.2

2025/07/28
by 菊地 信

ロレックスやオメガ、IWCなど、名だたる時計ブランドはその実用性や信頼性から高い価値を見出され、アンティーク愛好家たちの間ではいまなお高値で取引されている。

だがしかし、汎用ムーヴメントの採用や他社との協力開発によって良質な製品を生み出し、手ごろな価格帯で人知れず生き残り続けてきた傑作時計も数多く存在する。そこで今回は、マイナーだが確かな品質を備えた、隠れた名作シリーズを紹介する。


今回紹介するのは、1950年代にミドーが製造したマルチフォート パワーウインドだ。
マルチフォートシリーズは黎明期であった自動巻きのムーヴメントを防水ケースに搭載した実用時計で、防水性能以外にも耐磁、耐衝撃性能を備えた高性能な腕時計として同社の歴史を支えてきた。

このシリーズでは初期に搭載したバンパー式ムーヴメントが有名だが、ここで取り上げたモデルでは全回転式ローターのCal.917Pを採用している。
このムーヴメントはア・シールドのエボーシュムーヴメントをベースに、ミドー専用に精度の微調整が可能なインカスターシステムを組み込んだ特別品。天真には耐震装置を備えているため、日常的な使用でも安心できるだろう。

加えてこの個体には、初期に採用されていたFB(フランソワ・ボーゲル)ケースの意匠を継承したスクリューバック式の防水ケースが使われており、ムーヴメントの進化とともに、シリーズとしての一貫性を保ったデザインとなっている。さらに、ミドーの刻印が入ったオリジナルのプラ風防が残っており、非常に貴重な個体と言えるだろう。

文字盤はグレーカラーベースに十字状にツートン仕上げが施された秀逸なデザインで、くさび形インデックスやドーフィン針と相まって、1950年代の雰囲気を存分に感じさせてくれる1本だ。

文◎LowBEAT編集部/画像◎プライベートアイズ

【写真の時計】ミドー マルチフォート パワーウインド。SS(36mm径)。自動巻き(Cal.917PC)。1950年代製。14万3000円/プライベートアイズ

【希少なヴィンテージロレックスも!】全国からアンティーク時計が集結。ロービート主催による国内最大規模の“アンティーク時計フェア”の開催迫る

2025/07/25
by 菊地 信

全国のアンティーク時計ショップやディーラーが一堂に会する即売会「LowBEAT アンティーク時計フェア in 銀座」の第6回が、8月2日(土)・3日(日)の2日間で開催される!

同フェアは、業界唯一のアンティーク時計専門誌『LowBEAT(ロービート)』が、アンティークウオッチの魅力をよりリアルに体験していただくことを目的に企画し、2018年に初開催して以来、年に1回実施(コロナ禍は中止)しており、今年で6回目の開催となる。

【過去のイベントの様子を写真でチェック!】

 

最大の見どころは何と言っても、全国各地から集結する豪華出店陣。今回は各地から30の出店があり、アンティーク時計のフェアとしてはおそらく国内最大規模になる。ショップだけでなく、なかには卸を専門とするディーラーなどの出店もあるため、普段は味わえない経験や出物に出合える可能性もあるのだ。

出店一覧
アンティークウォッチ・モキタス/石井商店/英国屋・MJQ/AllTime/おろろじあんてぃーく/開化堂・名古屋時計修理センター/Curious Curio(キュリオスキュリオ)/京都屋/クールビンテージウォッチ&クールオークション/古拙時計/コミット銀座/スプリングウオッチファクトリー/セコンド/TIMEANAGRAM/TIME-BASE/ダイワ時計店/DISCOVERY WATCH/DECO/Dnf/とけいや時左衛門/BQ/BILLIONWATCH/VINTAGE WATCHES REALITY/まるか/ムーンフェイズ銀座/YS ANTIQUES/LIBERTAS/Watch Tender 銀座/WTIMES


現在、PassMarketで当日料金よりもお得な前売り券(デジタルチケット)を絶賛発売中。熱心なファンはもちろん、3日の14時以降は、無料の時間帯となるため、アンティーク時計ビギナーも気軽に参加してほしい。

 

【前売り券を購入する】

 

フェア情報「第6回 アンティーク時計フェア in 銀座」
開催日程:2025年8月2日(土)・3日(日)
時間:2日 10:00〜17:00/3日 10:00〜16:00(14:00〜無料開放)
会場:銀座フェニックスホール2F
住所:東京都中央区銀座3-9-11 紙パルプ会館2F(銀座フェニックスホール)

文◎LowBEAT編集部

【オメガやIWCだけじゃない】この夏、狙い目の隠れた名作実用時計

2025/07/24
by 菊地 信

ロレックスやオメガ、IWCなど、名だたる時計ブランドはその実用性や信頼性から高い価値を見出され、アンティーク愛好家たちの間ではいまなお高値で取引されている。
だがしかし、手ごろな価格帯で人知れず生き残り続けてきた傑作時計も数多く存在する。そこで今回は、マイナー気味だが確かな品質を備えた、隠れた名作シリーズを紹介する。

今回紹介するのは、1965年にスイスのティソが製造したヴィソデイト シースター T12だ。


1853年創業の老舗メーカー、ティソの防水時計シリーズであるシースターの名を冠しており、そのなかでも、1956年に登場したT12は、当時120m防水(12気圧)を誇る“超防水時計”として、当時の防水時計の概念を塗り替える存在であった。ちなみにこのほかにも、シースターの名を冠したモデルにはモータースポーツを意識したPR516や、ワンピースケースを採用したシースターセブンなどが存在していた。

高い防水性を実現するための12角形のスクリューバック式の裏ブタには、シリーズの象徴である船のモチーフが力強く刻まれている。ポリッシュ仕上げを主体とした35.5mm径の程よいサイズ感のケースは装着感を損ねない絶妙なバランスだ。

ムーヴメントには、当時のティソで多く採用されていたCal.784を搭載。高級機ではないため、簡素な仕上げだが、手巻き式ムーヴメントをベースに、スイッチングロッカー式の自動巻き機構を重ねた構造は、巻き上げ効率と信頼性に優れており、日常使用にも十分耐えうる性能を備えている。

またサンレイ仕上げの文字盤にアプライドインデックスを組み合わせたシンプルな顔立ちは、どんなシーンにもなじみやすい。希少なエクステンション式の純正ゲイフレアーブレスレットが装着されており、コレクターピースとしての価値も高い。

ティソのシースターシリーズは全般的に、外装、ムーヴメント、ともに高い品質を備えているため、十分なメンテナンスを施せば、いまなお活躍できる資質を備えている。
どうしても、ブランドの地位や資産性の観点から、アンティークウオッチ店での取り扱いが少ないティソだが、しっかりとしたケースの作りや、安定したムーヴメントの性能には目を見張るものがある。ぜひシースターシリーズに限らず、ティソの時計にも注目してみてほしい。

文◎LowBEAT編集部/画像◎WatchTender 銀座

【写真の時計】ティソ ヴィソデイト シースター T.12。Ref.43514。SS(35.5mm径)。自動巻き(Cal.784)。1965年頃製。18万8000円/WatchTender 銀座

【時計には汗や湿気が大敵!】過酷な夏にオススメな裏ブタの無いワンピースケースのアンティークウオッチ3選

2025/07/23
by 菊地 信

連日のように猛暑が続き、汗ばむ日が続く今日。日本の夏はアンティークウオッチを愛用する方々にとっては過酷な季節だ。汗だけでなく、水蒸気の多い外気や、エアコンの効いた室内と室外の温度差など、防水性能の高くない時計にとっては厳しい環境と言えるだろう。
そこで今回は水分の侵入経路が少ない、ワンピースケースを採用したアンティークウオッチ3本と、その取り扱いについて紹介する。

1本目は、1960年代に製造されたIWCのオートマチックモデルだ。
オーバル型のワンピースケースを採用し、ムーヴメントには同社が誇るペラトン式自動巻きのCal.8541を搭載している。リューズには魚のマークが刻まれており、防水性能を重視したモデルであることが伝わる。文字盤やムーヴメントに目立つようなサビや腐食がみられないため、しっかりと水分の侵入を防いでいたことが伝わる。


【写真の時計】IWC。Ref.R815A。SS(35mm径)。自動巻き(Cal.8541)。1960年代製。22万8800円/BEST VINTAGE


次に紹介するのは、キングセイコー スペシャル クロノメーターだ。
1970年代、亀戸の第二精工舎が製造した個体で、カレンダーの瞬間切り替え機能を備えた自動巻きのCal.5246を搭載。フラットなケース底面と、6時位置のラグ間に外部微動緩急調整機能が備わっている点が特徴的だ。34mm径のコンパクトかつ薄型のケースは、ワンピース構造の利点を生かした設計と言えるだろう。

【写真の時計】キングセイコー スペシャル。Ref.5246-6000。SS(34mm径)。自動巻き(Cal.5246)。1970年代製。6万9800円/WTIMES


最後に紹介するのは、1972年から80年までイギリス陸軍に支給されたCWC製のW10だ。
ステンレスの塊をくり貫いて成形したワンピースケースに防水型テンション風防で防水性を高めている。ムーヴメントには耐震装置付きのCal.ETA2750を搭載しており、ミリタリーウオッチらしい堅牢な構造が魅力的だ。外装は傷も多くヤレ感のある状態だが、軍用時計らしさにあふれている。


【写真の時計】CWC。イギリス陸軍 W10。SS(32.5mm径)。手巻き(Cal.ETA2750)。1973年製。17万6000円/キュリオスキュリオ


ワンピースケースは防水と堅牢性を高める目的で製造されたものだが、今回紹介した3本とも、製造から半世紀以上が経過していることに加え、リューズパッキンの劣化やプラスチック風防の圧入による固定など、現在ではその高い性能を維持しているわけではないため、十分なメンテナンスを行い、極力水気を避ける必要がある。
特に、夏の冷房の効いた部屋から湿度の高い室外に出る場合や、室外から涼しい室内に戻る際には注意が必要で、防水が効いていたとしても、時計内部に侵入した水蒸気が冷やされることで時計に結露が生じてしまい、内部の文字盤やムーヴメントに悪影響を及ぼす可能性がある。
そのため、時計に付着した汗や水分をよくふき取り、時計自体に激しい温度変化を与えないように取り扱う必要がある。

【普通のクロノグラフとはひと味違う!】独自機構が光る1930年代エベラールの傑作クロノグラフ

2025/07/14
by 菊地 信

今回紹介するのは、1930年代にエベラールが製造したクロノグラフである。


ステップベゼルにブレゲ数字のインデックスとブレゲ針を組み合わせたクラシカルな顔立ちは、アンティークウオッチ愛好家のツボを押さえたデザインで、非常に印象的だ。またステンレス製ケースの直径は、当時の腕時計としては珍しく大型の40mmで、現代でも違和感のないサイズ感が魅力的に映る。

そして何より、この時計最大の特徴は、通常のクロノグラフとは異なる操作方法と、その独自のムーヴメントにある。
搭載されているCal.16000では、2時位置のプッシャー操作のみでスタート、ストップ、リセットという基本操作をすべて行うことができる。一方、4時位置のプッシャーはリューズ側にスライドする構造となっており、これにより計測の一時停止および再開が可能なのだ。この機能は、クロノグラフ機構のみを停止させるもので、時計そのものは常に動作し続ける。
現代のクロノグラフとは一線を画す操作方法からは、様々な構造を模索しながら設計を行っていた当時の腕時計ならではの味わい深さを感じる。

文字盤や針には大きな変色やサビも見られず、ケースもオリジナルのシェイプを保っている。クロノグラフの名門として知られるエベラールの中でも、こうした珍しい機構を備えた本モデルは、マニア必見の一本と言えるだろう。

文◎LowBEAT編集部/画像◎キュリオスキュリオ

【写真の時計】エベラール クロノグラフ。SS(40mm径)。手巻き(Cal.16000)。128万円。取り扱い店/キュリオスキュリオ

【経年でブラウンカラーに変化】1940年代に製造されたIWCの手巻き時計

2025/07/09
by 菊地 信

今回紹介するのは、1940年代にIWCが製造した“ハーメット”ウォータープルーフモデルだ。一見すると、ドレスウオッチとも思えるファンシーラグを備えるが、ハーメットと呼ばれる気密性の高い防水ケースを採用している。そのおかげか、ムーヴメント全体にサビや腐食は見られず、非常に良好なコンディションを保っている。


ムーヴメントにはIWCの名機として語られる手巻きのCal.83を搭載。
細かく分割された流線形の受け板の表面には、コート・ド・ジュネーブ仕上げが施されており、かつて同社が生産していた大振りな懐中時計を思わせるような美しさだ。また、この個体ではテンプの軸を衝撃から保護する耐衝撃装置“インカブロック”が採用されており、実用性にも優れた仕様となっている点は見逃せない。巻き上げヒゲゼンマイや香箱受けの下に角穴車を配置した設計などから、ハイグレードなムーヴメントとして製造されたことがうかがえる。

また、この個体のように、経年によって濃いブラウンカラーに変化した黒文字盤は、トロピカルダイアルとも呼ばれている。そのなかでも、文字盤全体が均一に変色したものは希少であり、同じ色や模様の物が存在しないという理由から、多くの時計愛好家に好まれている。

風合いある経年変化や高い実用性など、普段使いできるアンティークウオッチとしておすすめできる1本だ。

文◎LowBEAT編集部/画像◎プライベートアイズ

【写真の時計】IWC。SS(32mm径)。手巻き(Cal.83)。38万5000円。取り扱い店/プライベートアイズ


【この見た目で音が鳴る⁈】多機能なのに意外とお手頃な手巻き&自動巻きアラームウオッチ3選

2025/07/08
by 菊地 信

機械式腕時計には、クロノグラフやアラーム、リピーター機能など、ゼンマイの動力と歯車だけで作動する純粋なアナログ機構が搭載されており、多くの愛好家を魅了してきた。なかでもリピーターウオッチは、その複雑性と希少性から非常に高価で、一般消費者には手が届きにくい存在となっている。一方、同じ鳴りモノ系でもアラームウオッチは1950年代のアメリカ市場でのブームを背景に、各社が競って量産を行ったことから、現在でも流通量が多く、比較的手頃な価格で入手することが可能だ。そこで今回は、機能付きなのに意外とお手頃な手巻きアラームウオッチを紹介していく。

1本目は、1950年代にティソが製造したソノラスだ。文字盤上の4本の針が特徴的であり、2時位置に配されたリューズによって矢印型のアラーム設定針を操作することが可能になっている。程よく焼けた文字盤とクサビ形のインデックス、パールドットやロゴマークなどの立体感が魅力的だ。また、アラームウオッチとしては珍しく、防水ケースに納められており、ネジ込み式のリングによってピン付きの裏ブタを押し付ける構造を採用している。実用性を考慮した堅牢な作りのおかげか、この個体では文字盤やムーヴメントに目立ったサビや腐食は見られない。


【写真の時計】ティソ ソノラス。SS(33mm径)。手巻き(Cal.25.6-821)。1950年代製。19万円。取り扱い店/Curious Curio(キュリオスキュリオ)


次に紹介するのは、シチズンが製造したシチズン アラームだ。1959年に初代モデルが誕生し、国産初のアラームウオッチとして名を馳せていたモデルである。その中でも、今回紹介する個体はジャガー・ルクルトによく似たアラーム設定ディスクを備えた初期型の個体だ。2重になった裏ブタの内側に立てられたピンをハンマーで叩くことで大きな音を出す仕組みであり、十分な音量を確保している。文字盤やケースに年代相応の劣化は見られるものの、比較的良好なコンディションを保っている。


【写真の時計】シチズンアラーム。SS(35mm径)。手巻き。1950年代製。13万2000円。取り扱い店/Watch CTI


最後に紹介するのは、ジャガー・ルクルト メモボックスの自動巻きモデルである。バンパー式自動巻きムーヴメントのCal.815を搭載し、1959年に世界初の自動巻きアラームウオッチとして登場した。
文字盤には三角形のマークが印刷された回転ディスクが配されており、ひと目でメモボックスとわかる先代モデルの意匠を継承している。同社を代表するアイコンモデルとして高く評価され、現在も後継機が製造され続けている名作シリーズである。
こちらもネジ込み式のリングを採用した防水ケースを採用しており、気密性を高めたケース構造もあって文字盤や針の腐食や変色は少なく、良好なコンディションを保っている。さらに純正のゲイ・フレアー社製ブレスレットが付属している点にも注目だ。ただし、当時の防水性能は期待できないため、非防水として扱うことを推奨する。


【写真の時計】ジャガー・ルクルト メモボックス。Ref.E855。SS(37mm径)。自動巻き(Cal.815)。1960年代製。58万8000円。取り扱い店/WatchTender 銀座


文◎LowBEAT編集部

【TV型のレトロフューチャーなデザインが魅力】ゼニス・1970年代のハイビートクロノグラフ

2025/07/04
by 菊地 信


今回紹介するのは、1970年代に製造されたゼニスのエル・プリメロ TV型モデルだ。ムーヴメントには1969年に誕生した、自動巻きクロノグラフのエル・プリメロ、Cal. 3019PHCを搭載。同社を象徴するムーヴメントであり、後年には他社も搭載するほどの高い完成度を誇った。毎時3万6000振動(毎秒10振動)のハイビートである点に注目だ。


ケースや文字盤、プッシャーやインダイアルなどは、徹底してスクエア形のデザインに統一されており、ソリッド感あふれる仕上がりだ。特に、クロノグラフのプッシャーは目立たないような形状に成形されており、外装デザインの一体感に一役買っている。

ブレスレットはケース側面から伸び、バックルに向かってテーパーがかかっていく形状で、スポーティーな印象でありつつも、装着性も考慮されていることが伝わる。この時代としては珍しく、ブレスレットのコマが無垢を削りだしたものであるため、重厚感のある仕上がりが魅力的だ。

ケースには大きな傷や打跡は見当たらず、非常に良好なコンディションを保っている。文字盤や針にも目立つようなシミや傷、歪みは見られない。
一風変わったデザインの時計を探している人や、自動巻きクロノグラフ愛好家は要チェックの逸品だ。

文◎LowBEAT編集部/画像◎WatchTender 銀座

【写真の時計】ゼニス エル・プリメロ。Ref.01-0200-415。SS(40mmサイズ)。自動巻き(Cal.3019PHC)。74万8000円。取り扱い店/WatchTender 銀座

【メカニズムが面白い!】ロマンあふれる機構をもつ自動巻き黎明期の腕時計

2025/07/02
by 菊地 信

現代の高級な腕時計には標準的に装備されている自動巻き機構。だが、その成熟に至るまでには様々な試行錯誤が重ねられていた。今回は現代では廃れてしまったメカニズムを搭載したユニークな自動巻き機構をもった腕時計を紹介する。

1本目は、1950年代に製造されたルクルトのバンパーオートマチックだ。
ローターが限定的な角度で作動する独特の構造が特徴。クラシックでスリムなケースデザインから、一見すると手巻き式にも見えるが、れっきとした自動巻き腕時計である。

【写真の時計】ルクルト。SS(33.5mm径)。自動巻き(Cal.P812)。1950年代製。34万1000円。取り扱い店/プライベートアイズ


ムーヴメント内部には錨型のローターと、それを受け止めるショックバネが組み込まれている。この構造により振動が大きく、ローターがバネにぶつかる際の動作音も大きかったため、一部の消費者からの評判は芳しくなかったようだ。
しかし、ショックバネに当たった際の反動や、わずかな動きでも回転しやすいハーフローターの特性により、巻き上げ効率は見た目以上に優れており、初期の全回転式ローター搭載モデルを上回る性能をもっていたともいわれている。また、非常にシンプルな構造で故障も少なく、高い信頼性を誇った。

ルクルトは、このバンパーオートマチックの技術を成熟させ、後年にはアラームウオッチにも搭載することを実現していた。自動巻きの進化の過程で淘汰されてしまっているが、十分な性能を発揮できる機構であったのだ。

次に紹介するのは、1930年代にワイラーが製造した、裏ブタ可動式の自動巻きだ。


【写真の時計】ワイラー。SSバック(23.5×41mmサイズ)。自動巻き。1930年代製。18万7000円。取り扱い店/プライベートアイズ

独特な巻き上げ機構から、ステープラー(ホッチキス)とも呼ばれ、2重になった可動式の裏ブタをホッチキスのように上下に作動させることで内ブタのピンが押し込まれ、ゼンマイを巻き上げる構造であった。
手首を曲げた際に、太さが変化することに着目した構造であったが、日常動作で十分な巻き上げ効率は期待できず、次第に廃れていってしまった構造である。また、リューズが裏ブタ側に配置されており、見た目の新鮮さと、手巻きが必要ない自動巻きらしさをアピールしていたことがうかがえる。

いずれの時計も、より優れた技術の誕生や、実用性の低さゆえに姿を消していってしまった機構だが、工夫を凝らした構造や、試行錯誤の痕跡が見て取れるギミックが男心をくすぐる逸品だ。

文◎LowBEAT編集部/画像◎プライベートアイズ