【文字盤が天然石?!】70年代にセイコーが生み出したクォーツ時計の最高峰

2025/04/16
by 菊地 信

セイコーがかつて展開したモデルに“V.F.A.”の名をもつものがある。
これは“Very Fine Adjusted”の略称で、つまりは非常に高度な調整を施したキャリバーに与えられる称号だ。 18金ホワイトゴールドのケースには、世界にクォーツという名を広めたV.F.A.3820クォーツムーヴメントが納められている。

また外装も非常に凝っていてエングレービングが施された18金ケースと、天然石の文字盤を採用しており、当時の高級機種であったことを感じさせる。純正の18金ホワイトゴールド尾錠がついていることにも注目していただきたい。ケースと文字盤のコントラストが手首を鮮やかに彩ってくれる1本だ。

当時のカタログによれば、天然石の文字盤は、赤十勝石、ソーダライト、タイガーアイ、ヘマタイトのバリエーションが用意されており、この個体はソーダライトが用いられていることがわかる。さらに、文字盤は天然石から作りだされているため、同一のモデルは存在するが、まったく同じ模様はこの世に存在しないのだ。その特別さは高級時計としての魅力を十分に引き出しているのではないだろうか。

なおこの個体は1973年に製造され、貴金属や宝飾品を用いた高級腕時計“セイコー特選時計”というシリーズにラインナップされていた。発売当時のカタログでは53万円という、現代の感覚としても十分高価な価格だが、同時代のステンレスブレス付きの56GSが4万9000円であったことを考えると、18金ホワイトゴールドのケースであったことを考慮しても、かなりのハイエンドモデルに位置付けられていたことがうかがえる。

当時の日本の時計産業の粋を集め、究極の腕時計として生まれたV.F.A.クォーツ。スイスの時計産業を超えようと切磋琢磨した証であるということは、その完成度から伝わるのではないだろうか。

【写真の時計】セイコー クォーツ V.F.A.。Ref.3820-6000。K18WG(約36mm径)。クォーツ(Cal.3820)。1973年頃製。118万8000円。取り扱い店/BEST VINTAGE

文◎LowBEAT編集部

【34mmサイズに凝縮】ボールベアリング採用で有名な“エテルナ”を代表する自動巻き時計

2025/04/15
by 菊地 信


ローターの回転軸に、世界で初めてボールベアリングを採用した自動巻きムーヴメントを開発したことで知られるエテルナ。
今回紹介するのは、その代表作でもあるエテルナマチック コンチキの希少な1stジェネレーションのなかでもほとんど見ることのない34mm径のレアピースだ。
ドーフィン針を備えるユニークな夜光インデックス仕様のブラックミラーダイアルや、回転ベゼルを備えないスクリューバック防水ケースなど、1stジェネレーションならでは様相はそのままに、34mm径に凝縮された絶妙なサイズ感が素晴らしいテイストの逸品である。

メタルで縁どりされたトライアングル型のインデックスのなかに、さらにアプライドのアラビア数字が配されたユニークなデザインは高級感を演出するとともに、視認性の向上にひと役買っている。
そして"KONTKI"刻印がなされた同年代のゲイフレアー社製オリジナルブレスレットが個体の希少性をさらに高めている。小さなステンレス板を巻いてつくられたブレスレットは、軽量かつ丁寧に面取りされたやわらかい装着感であり、一度でも身に着けると手放せなくなってしまうほど上質な着け心地だ。

搭載されるムーヴメントはCal.1410。今日のETAムーヴメントの礎となった、ローター軸にボールベアリングを採用した名作である。
ボールベアリングの軸とリバーサー式の巻き上げ機構を採用した近代的な設計は、現代においても十分な性能を発揮するだろう。

スポーツ系のアンティークウオッチがほしいが、誰とも被らない時計がほしい。あえてマニアックなチョイスをしたいという人にはもってこいの1本だ。ただし、製造から少なくとも60年以上経過しているため、自動巻きのリバーサーが摩耗している可能性がある。エテルナマチックに興味のある人は、専門店で整備済みの個体を購入したほうがいいだろう。

【写真の時計】エテルナ エテルナマチック コンチキ。SS(34mm径)。自動巻き(Cal.ETA1410)。1960年代製。79万2000円。取り扱い店/プライベートアイズ

文◎LowBEAT編集部

【ビッグロゴが愛らしい】ニバダが1950年代に手がけたショップウオッチ

2025/04/14
by 菊地 信

1950年代製造のポルチェロ“アクアマチック”は、クロトン・ニバダがアメリカの宝飾店“ポルチェロ”の依頼を受けて製造を行ったショップウオッチだ。ニバダといえば、2019年にウオッチブランド“ウィリアムエル1895”を立ち上げたギョーム・ライデ氏と、時計メーカー“モントリシャールグループ”のオーナーであるレミ・シャブラ氏がニバダのブランドライセンスを獲得し、現代に復活したことで名前を知っているという人もいるだろう。

今回紹介するモデルのデザインをよく見ていただきたい。現ニバダ・グレンヒェンが復刻した“ANTARCTIC(アンタークティック)”に似たディテールを備えている。それもそのはず、旧クロトン・ニバダの名でもポルチェロ アクアマチックと同様のモデルを“ANTARCTIC PENGUIN(南極ペンギン)”と名づけて販売していたのだ。

この個体は、大胆なビッグロゴデザインや抽象化されたアラビアインデックス、きめ細かいマットホワイトのダイアル、ミドルケースからラグにかけて緩やかにカーブしたドレッシーな防水ケース、赤メッキが美しい自動巻きムーヴメントの搭載など、デザイン性や作り込みなどマイナーながらも面白みを感じさせる逸品だ。
搭載するムーヴメントはETA 1256。中3針の手巻きムーヴメントをベースに、自動巻きユニットをかぶせた、当時の自動巻きムーヴメントによく見られる設計を採用している。

ベゼルレスケースからは50年代当時のウオッチデザインの流行を感じられるとともに、ステンレスの加工が容易ではなかった時代の時計とは思えない造形を実現していることから、クロトン・ニバダの高い技術力を感じられる。

端正でありながら、どこか愛らしさも感じられるデザインは、場面を問わずに使用できるだろう。実用性の高いアンティークウオッチとしておすすめの1本だ。


【写真の時計】ポルチェロ アクアマチック。SS(33.5mm径)。自動巻き(Cal.ETA-1256)。1950年代製。25万3000円。/プライベートアイズ

文◎LowBEAT編集部

【ロレックスやオメガだけじゃない!】『007』にひっそりと登場した、知られざる“ボンドウオッチ”

2025/04/11
by 菊地 信

ティソといえば、50年以上にわたってスポーツ競技のタイムキーパーとしても活躍し、過酷な環境下での使用を想定したスポーツウオッチを数多く生み出してきた。

今回取り上げるティソ シースターダイバーも例にもれず、スポーツシーンを想定して作られたティソPRシリーズのひとつだ。
ティソの公式サイトによれば、PR516の“PR”には“Particularly Robust(特に頑丈)”、そして“Precision and Resistance(精度と耐久性)”といった意味が込められており、“516”には、ティソとして5番目の防水対応のシリーズで16番目のモデルであることを意味しているそうだ(もっとも、当時“PR516”の名をもつモデルが様々なデザインで展開されていたため、単に何番目のモデルかを示すだけではなく、別の意味があった可能性はある)。
このモデルは回転ベゼルを備えており、ソリッドな質感のケースと相まって70年代のスキンダイバーらしさを感じられる。グレーに退色したゴーストベゼルも味わい深い。

ムーヴメントは当時のティソに数多く搭載されていたCal.784-2。汎用の3針自動巻きだが、毎時1万8000振動のロービートながら精度もよく、さらにムーヴメントをやわらかい樹脂スペーサーと機止めネジで浮かせる耐衝撃構造を採用し、その名に恥じぬ耐久性を実現している。

そしてなにより、PR516のダイバーは“007シリーズ”でジェームズ・ボンドが着用した、いわゆる“ボンドウオッチ”のひとつとされている点は見逃せないだろう。
歴代ボンドウオッチには、オメガやロレックス、ハミルトン、セイコーなどの時計が採用されており、重要なスパイアイテムとして映画を彩ってきた。

対してティソのPR516は、劇中でクローズアップされることはなかったものの、シリーズ8作目の『007/死ぬのは奴らだ』で、ジェームズ・ボンド役のロジャー・ムーアがボートでのチェイスシーンで着用しているとされる。

今回取り上げたモデルは、映画に登場したモデルとは文字盤や針などのディテールが異なるものの、隠れたボンドウオッチとして楽しめる1本なのではないだろうか。

【写真の時計】ティソ シースターダイバー。SS(35.5mm径)。自動巻き(Cal.784-2)。1960年代製。17万6000円。取り扱い店/Watch CTI

文◎LowBEAT編集部

【キングセイコーの名を冠した懐中時計?】高級感あふれる70年代の和装向け懐中時計

2025/04/10
by 菊地 信


今回紹介するのは、1970年代に製造されたキングセイコーのポケットウオッチだ。

外装に銀が使用された重量感のあるスクエアケースの懐中時計で、ムーヴメントはハイビート自動巻きのCal.5621を搭載している。一見、オイルライターにも見えるケースデザインが特徴的だ。

面白いのは通常の懐中時計とは異なり、和装で携行することを想定し、チェーンの先端を帯に差し込めるようになっている点である。樹皮を模したような文字盤テクスチャーと、槌目加工によって輝きを抑えた銀無垢のケースからは和の雰囲気を感じられ、和装にふさわしい時計として熟考されたデザインであることがうかがえる。そこにローマンインデックスを使用することで、落ち着きがありながらもスタイリッシュで洗練された印象にまとめている。

懐中時計に自動巻きのムーヴメントを使用する一見変わった組み合わせだが、Cal.5621の巻き上げ効率と携帯精度の高さ、手巻きが可能であるという点から、日常生活においての実用性を重視した結果なのだろう。純正のケースカバーが付属し、傷がつくリスクを軽減できるのも、うれしいポイントだ。
写真は和装での携行を想定したチェーンが装着されているが、付属する提げ紐に交換することで、スーツスタイルでの使用も違和感なくこなせるだろう。スクエア形の個性的なケースデザインがひと際目を引く、国産アンティークらしさにあふれたユニークピースだ。

特に、今回紹介する個体は発売当時のボックスとその他付属品が揃ったコレクター必見の逸品である。時計コレクターではない人にとっても、ライターのように懐から取り出し時間を確かめる、渋いオトナのアイテムとしていかがだろうか。


【写真の時計】KING SEIKO Pocket watch。シルバー(34×39.5mm サイズ、11mm厚)。自動巻き(Cal.5621)。1970年代製。16万5000 円 /BQ


文◎LowBEAT編集部



第3回【50万円以下の予算でロレックスのアンティークを買う】オイスターパーペチュアルを狙う!

2025/04/09
by 堀内 大輔

第2回では購入の目安となる1500系の自動巻きムーヴメントについて解説した。そこで今回はその1500系を搭載しつつも50万円以下でも買える「オイスターパーペチュアル」について紹介する。

オイスターパーペチュアルとは防水のオイスターケースを使用した自動巻き(パーペチュアル機構)モデルのことを指す。そのため人気の高いサブマリーナー、エクスプローラーも然り、オイスターケースに自動巻き仕様のモデルはすべて「オイスターパーペチュアル サブマリーナー」のように表示される。ちなみにオイスターケースを使っているものの手巻きムーヴメントを搭載している場合は単に「オイスター」だけとなる。

ロレックスの自動巻きモデルのなかで最もベーシックなラインであるオイスターパーペチュアルは、後に日付表示があるオイスターパーペチュアルデイトが登場して当時は2種類がラインナップしていた。

デイト無しが搭載する自動巻きムーヴメントは、当時のエクスプローラーと同じキャリバーナンバーで、クロノメーター仕様に毎時1万8000振動のCal.1560だ。これは70年代前後に毎時1万9800振動にアップした1570に移行し性能も向上している。そのためムーヴメントのこのキャリバーナンバーの違いも覚えておきたいポイントだ。そして1500系搭載モデルの製造は1960年代から70年代。その後は2008年に復活するまで長期間製造されていない。

写真のエンジンターンドベゼルを使用したRef.1007以外にも1002、1003、1005、1008(アメリカ市場向けゼファー)、1013(36mmのビッグオイスター)、1014(金張りケース)、1018(36mmのビッグオイスター)といった様々なバリエーションが存在する。そのためレファレンスによっても相場はバラバラだが、ベーシックなタイプだとギリギリ50万円切る価格で流通している。

一方のオイスターパーペチュアルデイトの1500系搭載モデルは一般的なスムースベゼルのRef.1500のほかにエンジンターンドベゼルのRef.1501、さらには18金無垢モデルもラインナップしていた。製造年代は1960年代から80年代までと比較的に長く、その後もモデルチェンジを繰り返しながらも生産は継続されている。

ムーヴメントはデイトジャストと同じクロノメーター仕様で毎時1万8000振動のCal.1565。ただ、このデイト表示には当初は24時に日付がカチッと変わるデイトジャスト機構が装備されていなかった。こちらも70年前後から毎時1万9800振動のCal.1575に変更。この頃からデイトジャスト機構も装備されるようになったと言われる。

時計:ロレックス オイスターパーペチュアル。Ref.1007。自動巻き(Cal.1560)。1960年代製。 49万8000 円/SELECT

文◎LowBEAT編集部



【通常のロードマチックと“デラックス“は何が違う?】短命に終わったセイコーの名機

2025/04/08
by 菊地 信


今回取り上げるのはセイコー56ロードマチックデラックス。ロードマチックといえば、当時はグランドセイコー、キングセイコーに次ぐ準高級機として位置づけられていた。ロードマチックに搭載されたCal.56系は、特徴的な輪列を採用した薄型のムーヴメントで、いずれも毎時2万1600振動であった。1968年の販売初期にはノンデイトのCal.5601、デイト付きのCal.5605、デイデイト付きのCal.5606がラインナップされていた。対してグランドセイコー、キングセイコーに搭載されたCal.56系は、それぞれヒゲゼンマイの仕様が異なった毎時2万8800振動のハイビートであり、ロードマチックとは差別化が図られていた。とはいえCal.56系自体のベース設計が優れているため、適切なメンテナンスを施せばロードマチックであっても十分な精度が確保できる。

前置きが長くなったが、この56ロードマチック デラックスはその名が示すとおり、通常のロードマチックとは異なる特徴がある。それは、前述したキングセイコーに搭載される毎時2万8800振動のCal.5626が搭載されているという点だ。ケースや文字盤こそ通常モデルとの違いがあまり見られないが、特別さを表に出さない謙虚さが日本人の感性に合うのではないだろうか。立体的なアラビアインデックスや、黒いラインが入った針など、視認性を向上させる工夫も、シンプルながら質感の向上に一役買っている。

56LMデラックスは、クォーツ式腕時計が普及しはじめた70年代、機械式腕時計の生産数が絞られるなか、76年に登場するも翌年には姿を消してしまった非常に短命なモデルだ。しかし、時計としての完成度は非常に高く、量産されていたキャリバーであるためオススメできる。

【写真の時計】セイコーLM デラックス。SS(37mm径)。自動巻き(Cal.5626)。1975年頃製。8万9100円/Watch CTI

文◎LowBEAT編集部