今回紹介するのは、クロノグラフの名門、ユニバーサル・ジュネーブが1950年代にリリースしたクロノグラフ、トリプルカレンダー、ムーンフェイズの機能を集約したトリコンパックスだ。一見すると通常のクロノグラフに見えるが、12時位置に追加されたポインターデイトとムーンフェイズによって四つ目に見える文字盤が特徴的だ。
ヘアライン仕上げがなされた文字盤の外周には青色のタキメーター、日付けを表示するカレンダー針には朱色のペイントが施されており、主張しすぎないトーンの差し色が美しい。また、12時方向にトリプルカレンダーとムーンフェイズ機能を集約させることで、判読性を向上させる文字盤デザインも、ユニバーサル・ジュネーブの技術力があったからこそ実現できたのだろう。
ムーヴメントには、クロノグラフ、トリプルカレンダー、ムーンフェイズを手巻きに詰め込んだ、Cal.281を搭載。8時位置と10時位置に配されたプッシュボタンでカレンダー合わせをすることが可能になっている。
同社のポールルーターにも見られた、うねるようなラグの意匠が特徴的であり、防水性を重視したスクリューバック式の裏ブタは繊細なムーヴメントの保護に一役買っている。
外装はやや小傷があり、使用感のあるコンディションだが、内部のムーヴメントはサビや変色も少なく良好な状態だ。文字盤については、目立つような傷や変色は少なく、全体的にエイジングが進み、程よく焼けた色合いが魅力的だ。
コンパクトな防水ケースに複雑機構を詰め込んだユニバーサル・ジュネーブを代表するハイエンド機。アンティーク愛好家は要チェックの名作クロノグラフだ。
文◎LowBEAT編集部/画像◎黒船時計古酒店
【写真の時計】SS(36mm径)。手巻き(Cal.281)。1950年代製。199万円。取り扱い店/黒船時計古酒店
1958年の発売当時、“日本一の薄型”をうたっていたシチズン デラックスは、同年3月の発売から2年ほどで100万個を販売するほどの大ヒット商品にまで上り詰めていた。当時の腕時計メーカーの間ではユーザーのニーズに応えるべく、薄さと精度の高さを追求し、様々な商品が開発されていったのだ。
当時、第二精工舎が展開していた薄型中3針のクロノスを上回る薄さを実現したシチズンデラックスは、後に精度や耐久性を向上させた上位版も発売された。それこそが今回紹介するスーパーデラックスだ。
発売当初は23石、3姿勢での精度調整が施されていたが、後に25石、5姿勢調整の仕様へと変更され、特別な精度調整が施された高級品であった。直訳すると“非常に贅沢”という、現代の感覚からすると安直なネーミングにも思えるが、製品自体はその名に恥じぬ、上質な仕上がりであった。
また、消費者にこのモデルの特別さをアピールするのにはうってつけのワードチョイスだったのだろう。そんな特別調整品には、高精度の証として文字盤に3ツ星がプリントされている。さらに、ブランドロゴには立体的な植字が採用されている点からも、高級機としての威厳を感じられる。
デラックスの設計は従来のムーヴメントとはまったく異なるものであり、本中3針と呼ばれていたセイコーのマーベルやクラウンと比較すると、分針が取り付けられる2番車が中心からオフセットされ、秒針は3番車から動力を受け取る、秒カナ式(秒針が直接的に動力を伝達しない、ピニオンを使用した方式)が採用された革新的な設計であった。
この設計は歯車のスペース効率を高め、地板を無理に薄くすることなくムーヴメント全体の薄型化を実現したものであり、後に登場する薄型手巻きの“エース”にも受け継がれている。また、軸受けの潤滑油の保油性を高める“プロフィックス”や耐震装置のパラショック、切れにくいゼンマイのフィノックスを採用することで、精度だけでなく耐久性も優れたムーヴメントであったのだ。
さらに当時の高級機としては珍しく、ステンレススチールケースのバリエーションも展開しており、今日の使用においてもメッキ剥がれの心配は少ないだろう。しかし、防水性能を備えていないため、高温多湿や水気には要注意だ。
文◎LowBEAT編集部
【写真の時計】SS(37mm径)。手巻き(Cal.9202)。1960年代製。5万5000円。取り扱い店/BQ
圧倒的な信頼性と実用性を備えることから、世界中のダイバーや時計愛好家から支持を集めるセイコーのダイバーズウオッチ。今回はセイコーダイバーズの進化過程において重要な中継地点となったモデルである、プロフェッショナル300mの魅力を解説していく。
1965年に登場した、ファーストダイバーこと62MASの登場から2年後、その2倍の防水性能を備えたプロフェッショナル300mの初代モデルが登場する。今回紹介するのは、その翌年(68年)に登場した、ハイビートムーヴメントのCal.6159を搭載する後継モデルだ。
150m防水のファーストダイバーのケースは、当時の海外製品の設計を参考にしていたが、プロフェッショナル300mでは、ワンピース構造、ネジ込み式リューズ、無機ガラスの風防と、それを固定するバヨネット式構造など、初代で不足していたスペックを補い、セイコー独自の進化を遂げた。
さらに、当時はまだ両方向回転式であったベゼルの裏側にはノッチを刻み、そこにスチールボールを当てる構造を採用。これにより不用意な回転を防ぎつつ、操作時にクリック感をもたらし、正確な位置への固定を実現した。この工夫は、現代のセイコーダイバーズに備わる逆回転防止ベゼルの設計思想の原点とも言える。使用者の安全を第一に考えた、まさにセイコーらしい発想だ。
堅牢性を重視した設計を盛り込んだこの時計は、その頑強さと信頼性の高さから、潜水士だけでなく、70年に冒険家である植村直己のエベレスト登頂に使用されるほどのスペックを備えていた。また、著名人が使用していたエピソードとして『宇宙戦艦ヤマト』や『銀河鉄道999』の作者であり、時計愛好家としても有名であった松本零士氏が愛用していたことでも知られている。
外装に注目すると、実用性と耐久性を両立させた、均整のとれた美しいデザインが魅力的だ。マットブラックの文字盤にはゴールドレターが施され、立体的なフチどりのなされたインデックスが視認性を高めるとともに、高級感を演出している。また、立体的なカット加工がなされた時分針からも手間をかけて製造されたことが伝わるだろう。
ムーヴメントには、当時のグランドセイコーにも使用されていたCal.6159を搭載。毎時3万6000振動(毎秒10振動)のハイビート機であり、使用者の安全を考慮して、高い精度と耐久性を備えたムーヴメントとして選定されたことがうかがえる。そして、それを納める重厚感のあるワンピースケースは、セイコーらしい平滑面と大胆な傾斜を組み合わせた造形が特徴。造形美と装着性を高い次元で融合させている。
他社に先駆けてガラス風防やワンピース構造を採用するという先見の明は、後に300mを超える深度での飽和潜水に対応した後継機であるRef. 6159-7010、通称“ツナ缶”が誕生するのには欠かせない要素であった。そして、この時代に得られたデータは、ブラッシュアップを繰り返しながら現在のセイコーダイバーズたちに脈々と受け継がれているのだ。
文◎LowBEAT編集部/画像◎黒船時計古酒店
【写真の時計】セイコー プロフェッショナルダイバー300m。Ref.6159-7001。SS(44mm径)。自動巻き(Cal.6159A)。1969年頃製。74万円。取り扱い店/黒船時計古酒店
今回紹介するのは、アメリカの時計ブランドであるベンラスが1960年代に手掛けた、ダイバーズウオッチのウルトラディープだ。ミリタリーウオッチ愛好家の方であれば、タイプⅠやタイプⅡの製造を手掛けたメーカーとして、一度は耳にしたことのあるブランドではないだろうか。
このモデルには、当時数多くの時計メーカーに防水ケースを供給していた、ケースメーカーのEPSA社が手がけたスーパーコンプレッサーケースを採用。2時位置と4時位置に配された二つのリューズが特徴的であり、2時位置がインナーベゼルの回転操作を、4時位置が時刻調整の役割を担っている。ケース内に回転ベゼルを納めたこの構造は、潜水の経過時間を確認するベゼルが不用意に回転することを防止するためだったとされている。
現在では防水性能が保証できないものの、スーパーコンプレッサーの名が示すとおり、当時はケースに水圧が掛かることでパッキンが圧縮され、気密性の高まる構造が採用されていたのだ。
シンプルな文字盤と独特な形状の針の組み合わせは、機能性を追求しながらもどこか愛らしさを感じさせる仕上がりで、そのなかでも6時方向にプリントされた防水性能を示す“666FT”(およそ200m)の表記が印象的だ。また、回転ベゼルが外側にないスリムなケースフォルムがシャープな印象を与えており、防水規格がまだ厳格でなかった時代のアンティークならではの味わいを感じさせる。
ムーヴメントには、数多くのメーカーで採用されていた実績のあるCal.ETA2472を搭載。優れた設計のコンパクトな自動巻きムーヴメントであり、しっかりと整備を行えば、毎時1万8000振動(毎秒5振動)のロービートながらも安定した性能を期待できる。
36mm径の小ぶりなケースサイズだが、どっしりとした厚みと形状であるため、手元で十分な存在感を示すだろう。
文◎LowBEAT編集部/画像◎ジャックロード
【写真の時計】ベンラス ウルトラディープ。SS(36mm径)。自動巻き(Cal.ETA2472)。1960年代製。34万8000円。取り扱い店/ジャックロード
今回紹介するのは、1930年代後半にロンジンが製造したとされる、Cal.25.17(9L)を搭載した希少なレクタンギュラーウオッチだ。角形時計の中でも、縦横の比率が異なる長方形のスタイルをレクタンギュラーケースと呼び、1920年代から30年代のアール・デコ様式の影響を受けて流行したとされている。
特徴的なのは、ドライバーズウオッチを彷彿とさせる、6時側と比較して12時側に厚みをもたせたケースデザインで、これが装着性と視認性を向上させる役割を果たしている。ケースとムーヴメントだけでなく、Cal.25.17搭載品の特徴でもあるダストカバーにも共通の固有番号が刻印された古き良きロンジンならではの、細部にいたるまでの作り込みがなされた希少な逸品だ。
このムーヴメントは耐久性を高めた構造となっており、数ある角形ムーヴメントの中でも傑作のひとつに数えられるほどである。一般的な角形ムーヴメントでは、スモールセコンドの針を取り付けるためにムーヴメントの中心線上に4番車を配置するが、このCal.25.17では4番車をオフセットした構造を採用している。
これは、細身の角形時計として仕上げつつ、テンワをできるだけ大きくして精度も出せるように考えられた設計であり、ロンジンの技術力を感じるポイントと言えるだろう。
また、この時代では珍しいブラックギルトダイアルが個体の希少性をさらに高めている。アラビアインデックスと磨きこまれたペンシル針、シャープなケース形状のシンプルかつ絶妙なバランスがツウ好みのデザインと言えるのではないだろうか。
目の肥えたアンティーク時計好きはもちろんのこと、初心者にもおすすめしたいレクタンギュラーモデルの逸品だ。
文◎LowBEAT編集部/画像◎プライベートアイズ
【写真の時計】ロンジン レクタンギュラー。ステイブライト(20×38mmサイズ)。手巻き(Cal.25.17)。1930年代製。34万1000円。取り扱い店/プライベートアイズ
今回紹介するのは、ドイツの自動車メーカー、“ポルシェ”の創設者であるフェルディナント・ポルシェの孫である、フェルディナント・アレクサンダー・ポルシェによって設立されたポルシェデザインと、IWCのコラボレーションによって誕生したコンパスウオッチだ。
1970年代に製造されたモデルで、時計部分が開閉できるようになっており、開けるとコンパスと救急信号用の鏡が装備されている。
一見すると、そのようなギミックに気づけない非常にインパクトのある構造だ。当時、外装デザインを担当していたポルシェデザインは、磁石を用いたコンパスを、磁気の影響を受けやすい腕時計に搭載するという難題に直面するものの、パートナーシップを結んだIWCは、以前から耐磁構造の研究を行っており、また西ドイツ海軍の水中地雷専門部隊向けに耐磁機能をもつダイバーズウォッチの開発を進めていたため、この問題を難なくクリアしたとされている。
このモデルでは精度と整備性に優れたETA2892をベースに、磁気を帯びない合金製の部品に置き換えたCal.375を搭載し、後に同社のミリタリーウオッチを代表するオーシャン BUNDにも採用されることになるのだ。
外装にはアルマイト処理を施したアルミニウムを使用し、軽量さと耐食性を高めている。また、ブレスレットは1コマ5mmに設計されており、定規代わりにして地図上の距離を測ることができるように設計されていた。デザインと機能性を融合させた合理的なデザインからはポルシェデザインらしさを感じられる。注意点として、アルマイト加工のやや柔らかいケース素材ゆえに、実際に使用する際にはケースの摩耗やコーティング剥がれに注意する必要がある。
同モデルの優れたデザインは現在でもコレクターからの人気を博し、後年においても復刻モデルが製造されるほどの人気ぶりであった。現在では電子機器やGPS機材の発展によって姿を消しつつあるツールウオッチだが、盛り込まれた工夫や機構、隠されたギミックは、いまなお男心をくすぐるアイテムとして残り続けているのだ。
文◎LowBEAT編集部/画像◎キュリオスキュリオ
【写真の時計】ポルシェデザイン by IWC コンパスウオッチ。Ref.3510。アルミニウム(39mm径)。自動巻き(Cal.375)1970年代製。55万円。取り扱い店/キュリオスキュリオ
皆さんは、昨今の腕時計はメンズサイズであればケース径40mm以上が当たり前という風潮や、時計売り場を見ても大きな時計ばかりが並んでいることに疑問を感じたことはないだろうか。
体格が良ければ違和感なく装着できるかもしれないが、腕が細く、時計が手首からはみ出てしまい、腕時計につけられてしまっているような状態や、時計が重すぎて肩が凝ってしまった経験をしたという人も少なくないはずだ。
そこで今回は、小ぶりな時計を探す人に向けて、コンパクトなモデルが多く存在するアンティークウオッチの中から、おすすめのモデルを紹介していく。
まず1本目に紹介するのは、1970年代に製造されたウォルサムのアメリカーナだ。金張りのケースとローマンインデックスのホワイト文字盤を合わせた、シンプルながらも華やかさを感じさせるデザインが特徴的である。文字盤の繊細な印字やエンブレムの丁寧な作りからは、手間をかけて製造された時計であることを感じられる。
ムーヴメントには、ETAと並んで有名なムーヴメントサプライヤ―であったア・シールドの1873をベースとしたものを搭載している。あまり聞いたことのないムーヴメントかもしれないが、かつては数多くのメーカーが採用したムーヴメントであり、その信頼性は高い。肝心のケースサイズは36mmの程よい大きさで、着用していても使用者の動きを妨げない絶妙なサイズ感と、文字盤のフォントのバランスが美しい、おすすめの1本だ。
【写真の時計】ウォルサム アメリカーナ。SS×GP(36mmサイズ)。自動巻き(Cal.HT148、AS1873ベース)。1970年代製。取り扱い店/WatchTender銀座
続いて紹介するのは、1970年代に製造されたセイコーのシャリオ。
手巻き式の時計であり、厚さ10mmをきる薄型かつ34.5mm径のスリムなケースは、同時期に同社から発売されていた高級薄型ドレスウオッチのUTD(ウルトラ・シン・ドレスの略)にも似たフォルムで、廉価ながらもエッジの立った造形が魅力的だ。
ネイビーの文字盤とバーインデックスがシックな印象のドレスウオッチで、腕の形に添うような造形のケースが装着性を向上させている。革ベルト以外にも、薄手のミラネーゼブレスレットを組み合わせることでコーディネイトの幅が広がるだろう。
ムーヴメントには、セイコーが量産していた手巻き式のCal.2220を搭載。毎時2万8800振動(毎秒8振動)のハイビートかつ24石の高性能なムーヴメントだ。シャツの袖にも難なく納まる薄さは、現代の時計でもなかなか実現できないだろう。ただし、防水性に劣るドレスウォッチであるため、炎天下の続く日や梅雨時など、湿気や水気を避けて使用することを推奨する。
【写真の時計】セイコー シャリオ。SS(34.5mm径)。手巻き(Cal.2220)。1970年代製。取り扱い店/WTIMES
最後に紹介するのは1959年に製造され、アメリカ軍で採用されたブローバのタイプA17Aだ。
ハードユースに耐えうる耐衝撃性と耐水性、耐磁性能を意識した作りこみが特徴的で、光が反射するのを抑えるために、艶消し仕上げがされたケースからは実戦を考慮したミリタリーウオッチらしさを感じる。
ケース径は32mmほどでかなり小ぶりに思えるが、視認性に優れたブラック文字盤やがっしりとしたケースのおかげで、腕元でも十分すぎるほどの存在感を放つだろう。また、ムーヴメントには耐震装置を備えた手巻き式のCal. 10BNCHを搭載。さらに、ネジ込み式の裏ブタのなかには、耐磁性を高めるためのプレートが装備されているため、電子機器の多いデスクワーカーにもおすすめできる。ただし、現代の耐磁性能規格とは異なるため、過信は禁物だ。
【写真の時計】ブローバ タイプA17A。SS(32mm径)。手巻き(Cal.10BNCH)。1959年製。取り扱い店/キュリオスキュリオ
今回紹介したモデルは、サイズ感を考慮しつつ、アンティークウオッチ初心者だけでなく、本格的な腕時計を初めて購入する人にとってもおすすめできるモデルをピックアップした。アンティーク品であるため、定期的なメンテナンスや丁寧な扱いは欠かせないが、性能面や整備性の観点から、今後数十年は問題なく使用できる腕時計たちだ。大きすぎず、無理なく使用できる時計は日常生活に溶け込み、良き相棒となってくれるだろう。
今回紹介したような、小ぶりでこだわりの詰まった腕時計。自分へのご褒美や初めてのアンティークウオッチに、ぜひいかがだろうか。
文◎LowBEAT編集部
今回紹介するのは、1940年代にモバードが製造したトリプルカレンダー機能を備えた腕時計“カレンドグラフ”だ。
通常のアナログ式腕時計では、日付けや曜日を表示するカレンダー機能が一般的だが、トリプルカレンダーと呼ばれる時計は、“月”まで表示することを可能にしている。
一見、秒針にも見える特徴的な赤いポインターのついた針は、文字盤外周の“日付け”を示し、3時方向の小窓で“月”、9時方向で“曜日”が表示されるデザインで、非常にバランスの取れた配置が魅力。曜日・月表示には同シリーズのなかでも珍しいポルトガル語表記が使用されている。希少なブラック文字盤は、夜空のような雰囲気のあるエイジングが魅力的だ。
SSケースはフランソワ・ボーゲル社の特許でもある“アクバティック”と呼ばれるインナーキャップスクリューバック防水ケースが採用されている。これは、ネジ込み式裏ブタと内ブタを備えた2重構造になっており、防塵、耐磁性能を高めることを目的としていたと考えられる。エッジが立ち、平滑面がしっかりと出たラグやベゼルが美しいケースだ。
がっしりとしたケースのなかには、モバード特有の曲線的な受板が特徴の手巻き式ムーヴメントのCal.470を搭載。ベーシックな3針機械がベースであるものの、主ゼンマイに取り付ける角穴車と、その巻き上げ動力を伝達する丸穴車のネジが特殊な工具を必要とする形状であるため、モバードの修理実績のある専門店で整備することをおすすめする。
現行品ではコストが掛かりすぎて真似できない機構や文字盤の塗装など、こだわりの詰まった仕上がりの時計が30万円以下で購入できる点は、アンティークウオッチならではの魅力と言えるだろう。味わい深いデザインの時計を探している人や、黄金期のモバードの時計を探している人は要チェックの1本だ。
文◎LowBEAT編集部/画像◎ダイワ時計店
【写真の時計】モバード カレンドグラフ。SS(32.5mm径)。手巻き(Cal.470)。1940年代製。22万円。取り扱い店/ダイワ時計店
1964年は東京オリンピックが開催された年であると同時に、海外渡航の自由化が実現した年でもあった。国際社会への意識が深まる中で、日本の腕時計メーカーたちは海外渡航者や国際市場を意識した時計の製造に乗り出していったのだ。
それこそが、昨今の時計でも数多く採用されている “ワールドタイム機能”を備えた腕時計であった。
今回紹介するのは、1964年の東京オリンピックに合わせてセイコーが発売した、国産自動巻き初のワールドタイム機能を搭載した腕時計だ。この個体は67年製であるが、裏ブタには聖火マークが刻印されている。
この当時は、通常の3針ムーヴメントを搭載して、都市名をプリントした回転ベゼルを回して任意の都市時刻を読み取る簡易的な方式がほとんどであったのに対し、このモデルでは24時間針と都市名がプリントされたインナーリングで海外の時刻を読み取る本格的な仕様であったのだ。もっとも、内周のリングが時刻と連動して動くわけではなかったため、海外の時刻を確認する際は毎回インナーリングを設定し直す必要がある。このインナーリングは4時位置のリューズを押し込んだ状態で回すことで操作が可能だ。
昼夜を判別しやすくするために色分けされた24時間表記や、回転式のインナーベゼルなど、実用性を考慮しつつも、バランスよくデザインされた文字盤が個性的だ。装着性を考慮して4時位置に配置したリューズもセイコーらしさにあふれている。またわずかに盛り上がった印字は文字盤上に立体感をもたらし、作りの良さを感じさせる要素となっている。
ムーヴメントにはセイコーのファーストダイバー“62MAS”に搭載されたものと同系統のCal.6217Aが搭載されている。手巻き機能はついていないものの、巻き上げ効率に優れたマジックレバー式の自動巻き機構を備えているため、使用前に十分な巻き上げを行えば問題なく使用できるだろう。パワーリザーブこそ従来どおりの短いものだが、日常動作でもゼンマイがしっかりと巻き上がるため、安定した精度が期待できる。
全体のコンディションは良好で、文字盤や針にも目立った傷やシミは見られない。加えて、純正の細やかなコマが特徴的なステンレスブレスが付属している点は見逃せない。
近年は、国産初のワールドタイム機能を備えた時計であることに加え、後の61系ワールドタイムやGMT機能を備えたデュオタイムなど、数々の名作の礎となったモデルである点からも、人気が高まっている。国産腕時計のなかでも、特殊機能を備えたモデルや特別なモデルを探しているという人にはおすすめの1本だ。
文◎LowBEAT編集部/画像◎Watch CTI
【写真の時計】SS(37.5mm径)。自動巻き(Cal.6217A)。1967年頃製。35万2000円。取り扱い店/Watch CTI
今回紹介するのは、1960年代にクロトン(ニバダ グレンヒェン)が製造したデプスマスターだ。近年、同ブランドから復刻モデルが発売されていたため、見たことのあるデザインだと思う人もいるだろう。
クッション形のケースは堅牢な作りで、パネライのケースに似ていることから、“ミニパネライ”とも呼ばれている。ベルト取り付け部は、パネライと同じくスクリューピン式が採用されており、とにかく堅牢性を重視していたことがうかがえる。
このケースはスイスのケースサプライヤーであるC.R.S(チャールズ・レニー・スピルマン)によって製造され、クロトン・ニバダ以外にも、国産メーカーの“オリエント キングダイバー1000”や、サンドス、エルジンなどに採用されていたようだ。軍用時計を思わせるような形状と頑強な作りから、このケースを採用したモデルは世界的にファンが多く、コレクターズアイテムとしていまなお高い人気を誇っている。
そして、このミニパネライの中でも特に人気が高いのが、今回紹介するモデルにも使用されている、通称“パックマン”と呼ばれている文字盤デザインだ。簡略化されたアラビアインデックスがゲームのパックマンのような形状に見えることから、このニックネームがつけられたそうだ。
ムーヴメントには同時代の自動巻き腕時計に数多く採用されていたCal.ETA2451が搭載されている。現代のETA2824の祖にあたる機械で、振動数や自動巻き機構の構造、ローターのベアリングの有無を除けば、基本的な設計はほとんど変わっていない。シンプルで故障が少なく、互換部品も多いため安心して使用できるムーヴメントだ。また、12角形の重厚なスクリューバックの内部には、防磁カバーが装着されており、耐磁性能も意識していたことがうかがえる。
ソリッドなケースと、経年変化によってマットな質感に変化したブラックミラー文字盤はこのモデルならではの重厚感があり所有欲を満たしてくれるだろう。防水時計とは言え、半世紀以上が経過した現在では完全な防水性能は望めないため、慎重に使用することをおすすめする。
文◎LowBEAT編集部/画像◎キュリオスキュリオ
【写真の時計】クロトン デプスマスター。SS(38mmサイズ)。自動巻き(Cal.ETA2451)。1960年代製。58万円。取り扱い店/キュリオスキュリオ