今回紹介するのは、1970年代後半に製造され、近年でも復刻版が発売されたシチズンの人気シリーズ、チャレンジダイバーだ。この時計は、海に落ちて83年にオーストラリアのロングリーフビーチでフジツボに覆われた状態で発見され、その後も動き続けていたという逸話から“フジツボダイバー”の愛称でも親しまれている。
チャレンジダイバーには異なる仕様がいくつか存在しているため、今回紹介するモデルはフジツボダイバーとは文字盤が多少異なるものの、基本的なスペックは共通していると思われる。
ステンレススチール製のケースにネジ込み式の裏ブタとリューズ、風防にはクリスタルガラスを採用した本格的な構造であったため、長期間海水に晒されていても内部に水分が侵入しなかったのだろう。
また、製造当時は潜水時計に関するISO規格が厳密に制定されておらず、150mの防水性能と両方向回転式のベゼルを備えている。簡易的なスキンダイビングに用いられたスキンダイバーから、本格的な空気潜水に用いるスキューバダイバーへと変化していく過渡期に生まれたこの時計は、その進化過程を思わせるような特徴をもっていたのだ。
ムーヴメントにはシチズンのCal.8210を搭載。これはいまなお量産されているミヨタの自動巻きムーヴメントとほぼ同じものであり、当時の時点で完成度の高い設計を実現していた。整備性が高く、補修部品も多く出回っている機械なので、今後のメンテナンスも安心できるだろう。
シチズンのダイバーズウオッチはセイコーと比較すると個体数が少ないうえに、使用環境もあいまってコンディションの悪い個体も少なくない。しかし、この個体はクリスタルガラスの傷が少なく、文字盤や夜光塗料の腐食もほとんど見られない。さらに、ベゼルのアルマイト加工も剝がれていない極上のコンディションが保たれている。
文◎LowBEAT編集部/画像◎セコンド
【写真の時計】シチズン チャレンジダイバー。SS(39.8mm径)。自動巻き(Cal. 8210A)。17万6000円。取り扱い店/セコンド
今回紹介するのは、IWCでも現在入手が困難になっているゴルフクラブ。その名が示すように、ゴルフでの使用を想定し、耐衝撃性と耐水性を重視したスポーツモデルだ。製造当時の1970年代にはあまり人気を得られなかったのか、短期間で製造が中止されてしまったために個体数が少ないレアモデルである。
デザインはパテック フィリップのノーチラスやオーデマ ピゲのロイヤルオークのデザイナーとして知られるジェラルド・ジェンタが手掛けており、2モデルにも通じるデザイン文法が用いられている。ケースラインからまっすぐと伸びたブレスレットに、ペンシル形の時分針が印象的だ。クッション形のケース形状は古典的であるものの、幅の広いブレスレットを組み合わせることでモダンな雰囲気とスポーティさを演出している。
アンティークのIWCのなかでも近代的な外装を備えたこのモデルは、現代においても色褪せない秀逸なデザインと言えるだろう。特に、ステンレスの無垢材を削り出したブレスレットには、同年の時計に見られる微調整用のバックルを廃したフラットな構造を採用しており、IWCの挑戦的な試みがうかがえる。一見するとバックルがないように見える構造は非常にスタイリッシュだ。
ムーヴメントには信頼性の高いCal.8541Bを搭載。1964年に開発された同社Cal.8541の改良版であり、IWCの特徴とも言える “ペラトン式”の自動巻き機構が採用されている。十分な巻き上げ効率と耐衝撃性が期待できるため、アンティークウオッチ初心者にとっても安心できる性能を備えたムーヴメントだ。
優れた耐衝撃性の秘密は、自動巻きローターの軸を支えるプレートに隠されている。
このプレートは曲がりくねった形状となっており、衝撃が加わった際にプレートがたわむことでショックを吸収し、ローター軸の破損を防いでくれるというわけだ。ちなみに、動力の伝達はローターから直接歯車で伝えるのではなく、先のプレートの上に重ねられた偏心カムとローラーを介して行っているため、隣接する歯車の破損リスクも軽減されている。
現代の自動巻きでは、ローター軸をボールベアリングによって保持する方法が一般的になっており、かつベアリング自体の性能も向上していることもあって優れた耐衝撃性を実現している。だが、かつての自動巻きローターは十分な対策が取られていなかったため、ローター軸の破損リスクが高かったのだ。
筆者自身も、ローターに耐衝撃構造を備えていない自動巻き腕時計を落としてしまった際に、ローター軸を破損させてしまった経験がある。
そのため、日常的に使用するアンティークウオッチを検討している人には、今回取り上げたような耐衝撃性を備えているモデルをぜひオススメしたい。アンティークの機械式腕時計であるため、丁寧に扱うことは大前提であるが、日常生活のなかで使用するぶんには十分な耐久性を備えている。どうしても華奢で壊れやすい印象をもたれがちなアンティークウオッチだが、優れた設計のムーヴメントはいまなお現役で稼働し、十分な性能を発揮することができるのだ。
文◎LowBEAT編集部/画像◎黒船時計古酒店
【写真の時計】IWC ゴルフクラブ。SS(34mmサイズ)。自動巻き(Cal.8541B)。1970年代製。99万円。取り扱い店/黒船時計古酒店
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1948年に誕生し、ミリタリーウオッチの開発で得た防水技術を落とし込んだとされているオメガのシーマスター。その防水性能に由来する実用性の高さから市場での人気を博し、現在に至るまでオメガのアイコンモデルとして継承されているシリーズだ。今回紹介するのは1950年代中頃に製造されたシーマスターである。
ゴールドレターとブラックのハニカムダイアルが特徴的。繊細な文字盤テクスチャーが高級感を演出するが、光の反射を抑えて視認性を向上させる役割もあるそうだ。全体のシャープなデザインバランスを崩さないように、ワンポイントで夜光塗料が入れられたドーフィン針とアプライドのインデックスからは、当時のデザイナーのこだわりが感じられる。
文字盤デザインだけに注目するとドレスウオッチらしくも見えるが、力強さを感じさせる太いラグとベゼル、スクリューバック式の裏ブタからは実用性を重視したスポーツウオッチらしさも感じられる。
また、純正のクローバー形リューズが残っている点も見逃せない。鏡面の太いラグと凹凸の少ない純正リューズの組み合わせは、初期のシーマスターならではの特徴と言える。指に引っかかる面が少なく、手巻きの際はやや使いづらいかもしれないが、リューズの直径が大きいことと自動巻きの巻き上げ効率が高いため、あまり心配する必要はないだろう。
ムーヴメントには、ハーフローターのバンパー式自動巻きCal. 354を搭載している。この時計を振るとコトコトという振動が伝わるが、これはローターが衝撃吸収用のバネにぶつかった際に起こる振動であり、バンパー式自動巻きの最大の特徴となっている。全回転ローターに比べると巻き上げ効率が低く、かつ振動が生じる点から、徐々にすたれていってしまった方式だが、当時オメガの製造したムーヴメントは巻き上げ効率と耐久性が優れていた。古典的であるものの、シンプルな構造ゆえに定期的なメンテナンスさえ行っていれば故障も少なく、現在でも問題なく稼働する個体が多いそうだ。インカブロックの耐震装置が備えられているため、実用性も抜群だ。
この個体ではオメガ製のライスブレスレットが装着されており手首回り17cmまで対応可能。アンティークでも気兼ねなく使える時計が欲しい、初めてのアンティークウオッチが欲しいという人にはぜひ手に取ってもらいたい1本だ。
文◎LowBEAT編集部/画像◎キュリオスキュリオ
【写真の時計】Ref.C2576-4。SS(34.5mm径)。自動巻き(Cal.354)。1950年代製。33万円。取り扱い店/キュリオスキュリオ
大振りなオーバルケースに14角形のベゼル、黒文字盤によく映えるイエローの針など、スポーティな印象を与えるこの時計は、1960年代にロンジンがリリースしたフライバック クロノグラフだ。優美な時計を数多く生み出してきたロンジンらしからぬ奇抜なデザインが目を引く。
ロンジンは様々な自動巻き機構を開発したほか、他社に先駆けてウルトラクォーツを発表するなど、挑戦的なメーカーであった。そういった背景からも、一歩先を見据えたデザインを積極的に採用していたのではないだろうか。
独特な目盛り(副尺)が先端についたクロノグラフ針はノギスのような役割を果たし、毎時1万8000振動(毎秒5振動)のロービートながらも0.1秒単位までの読み取りを可能としている。斬新なアイディアはもちろんのことだが、非常に細かい目盛りを加工するロンジンの技術力には脱帽だ。
ムーヴメントには名機として名高い、フライバック機構を備えたCal.30CHをベースに改修したCal.538を搭載している。このキャリバーでは永久秒針を廃し、30分積算計のみが配置されており、アシンメトリーな文字盤が特徴になっている。
またネジ込み式の裏ブタとベゼルで防水性を高めたケースに納められており、スポーツシーンを想定して作られた時計であることがうかがえる。ロンジンの伝統的な手巻きクロノグラフのムーヴメントと、スポーティな外装デザインのギャップがたまらない逸品だ。
アンティークのクロノグラフのなかでも、堅牢な外装を備えた安心感のある作りは、初めてアンティーク時計を手にする人にもおすすめできる。大きめのアンティークウオッチを探している人、特殊な機能を備えたクロノグラフを探している人は要チェックだ。
文◎LowBEAT編集部/画像◎ムーンフェイズ
【写真の時計】Ref.8225-2。SS(41mmサイズ)。手巻き(Cal.538)。1960年代製。84万8000円。取り扱い店/ムーンフェイズ
今回紹介するのは、文字盤と完全に分離された回転計算尺が特徴のホイヤーのカリキュレーターだ。独特なデザインの回転計算尺付き回転ベゼルを備えたケースは45mm径ほどで、アンティークウオッチとしてはかなり大型の部類に入る。しかし、文字盤自体はそこまで大きくないため、数値ほどの大きさは感じないだろう。ネイビー文字盤にオレンジを配色することで、複雑になりがちなクロノグラフの視認性を向上させると同時に、70年代のスペースエイジを感じさせる優れたデザインだ。
ムーヴメントは、1969年の同時期に3社から発表された、世界初の自動巻きクロノグラフのひとつに数えられる“クロノマチック”であり、毎時1万9800振動であった振動数を毎時2万1600振動にアップすることで精度の向上に成功した第2世代のCal.12を搭載している。
“クロノマチック”のCal.11とその後継機Cal.12はホイヤーを中心として、レオニダスやブライトリング、マイクロローター式の自動巻きを得意としたビューレンとその親会社にあたるハミルトン、クロノグラフ機構を得意としたデュボア・デプラの各社が協力して開発・製造を行ったとされている。マイクロローター式自動巻きのベースの上に、クロノグラフのモジュールを被せる構造を採用しており、厚みのあるムーヴメントであった。動力伝達とクロノグラフの制御方式には、現代でもETA7750が採用するスイングピニオン式とカム式が採用されている。ムーヴメントはかなり分厚く、プッシャーもリューズとは逆方向に配さるなど、試行錯誤を繰り返しながら誕生したことがうかがえる。 だが、初期型ゆえのプロトタイプらしさは、アンティークでしか味わえないだろう。構造的に巻き上げ効率が低いことや、厚みが出てしまう欠点があったものの、後の自動巻きクロノグラフにも影響を与えたこのムーヴメントは、名作と呼ぶにふさわしい逸品と言える。
小振りなものが多いアンティークウオッチでも大型のケース、いわゆる“デカ厚時計”を選びたいという人にとっては、自動巻きクロノグラフは見逃せない選択肢だ。
文◎LowBEAT編集部/画像◎ジャックロード
【写真の時計】ホイヤー カリキュレーター。Ref.110.633。SS(45mmサイズ)。自動巻き(Cal.12)。1970年代製。53万8000円。取り扱い店/ジャックロード
今回紹介するのは、1970年代にハミルトンがイギリス陸軍に支給していたミリタリーウオッチである。
近年、ハミルトンが“カーキ アビエーション パイロット パイオニア メカ”として復刻したため、どこか見覚えがあるという方もいるのではないだろうか。斜体のブランドロゴに独特のミニッツマーカーは復刻モデルでも忠実に再現されていた。復刻版のアビエーションという名前からも空軍パイロット用を連想させるが、陸軍や海軍でも同じものを使用しており、今回紹介する個体はそのなかでも製造数が多い陸軍用だ。
陸軍、海軍、空軍を区別するには裏ブタに刻印されたNATOコードを見れば明らかで、陸軍では“W10”のコードが用いられた。ちなみに、空軍の場合は“6BB”、海軍は“0552”と表記されている。またそれぞれにシリアルナンバーも与えられており、この個体の“1205/73”という数字から1973年に納入されたことも読み取れる。
ステンレスの塊をくり貫いて成形したワンピースケースに防水型のテンション風防で防水性を高め、ムーヴメントにはインカブロックの耐震装置が装備されているため、日常的な使用にも耐えうるスペックを備えている。 ムーヴメントにはシンプルな手巻き式のCal.649(ETA2750)が搭載されており、量産されていたことも相まって非常に信頼性が高い。 大量生産を意識して製造された時計ではあるが実用性と耐久性の高いこのモデルは、アンティークウオッチの入門機としてもオススメできる逸品だ。 また当時のミリタリーウオッチの特徴として、バネ棒の破損などによる脱落を防止するために、ベルトの取り付け部分がはめ殺し式になっている。そのため、基本的にはNATOベルトや引き通し式のベルトを装着することを想定して作られている。装着できるベルトは限られてしまうが着脱が容易なため、ベルトでコーディネートを楽しみたいという人にもうってつけの時計と言えるだろう。
文◎LowBEAT編集部/画像◎キュリオスキュリオ
【写真の時計】イギリス陸軍 W-10。SS(32.5×3.55mmサイズ)。手巻き(Cal.649)。1973年頃製。19万8000円。取り扱い店/キュリオスキュリオ
今回紹介するのは、1930年代に誕生したユニークなワイラー製自動巻き腕時計だ。
何がユニークかと言うと、自動巻き機構の構造で、2重になった可動式の裏ブタをホッチキスのように上下に作動させることで内ブタのピンが押し込まれ、ゼンマイを巻き上げるという他に類を見ない独創的なものになっている。
この動作がホッチキスのようだということで、ずばりホッチキスの英名である“ステープラー”という愛称で親しまれているのだ。
黎明期ならではのユニークで面白い構造であるが、なぜ当時のワイラーは効率性に優れた回転式ローターを採用しなかったのだろうか。
理由は意外にも単純。
ロレックスがいち早く全回転式ローターの特許を取得していたためで、ワイラーを含めた他社は同様の構造を採用することができなかったのだ。
結果として、回転角度が制限されたバンパー式の自動巻きや可動ラグ式、そして今回紹介した裏ブタ可動式などのユニークな自動巻き機構が生まれたのである。
残念ながら、この裏ブタ可動式の巻き上げ効率はそれほど良くなかったようだが、ある程度のスペースを必要とする回転式ローターに比べてコンパクトな機構だったため、当時の流行の最先端であったレクタンギュラーケースにも納めることが可能だった。
またリューズは一般的なケース側面ではなく、裏ブタ側に設置されているため非常にすっきりとした見た目になっている。おそらく“手でゼンマイを巻き上げる必要がなく、時刻を合わせる手間も少ない”ということを強調するためのデザインであったと考察できる。
重厚感のあるレクタングルケースはまさに機能美にあふれており、アール・デコデザインのセクターダイアルが時代の様相を物語る貴重な逸品だ。自動巻き腕時計の歴史に残るユニークな機構をぜひ一度手に取ってもらいたい。
文◎LowBEAT編集部/画像◎プライベートアイズ
【写真の時計】Ref.2200。クロミウム(22.5×35mmサイズ)。手巻き。1930年代製。22万円。取り扱い店/プライベートアイズ
フランス語で“街角”という意味を指すデ・ヴィルは1960年、シーマスターの薄型モデルとして誕生した。その数年後、オメガのアメリカ代理店ノーマン・モーリスがオメガ本社に対し、デ・ヴィルの名称を文字盤に入れることを提案したことにより、“シーマスター デ・ヴィル”が誕生したとされる
その後、67年にシーマスターから独立し、薄型のドレスウオッチ専用のラインとして再編されるのだが、今回紹介するモデルはその独立する前後に製造されたと思われるモデルである。よく見ると文字盤から“Seamaster”の表記はなくなっているものの、裏ブタにはしっかりとシーマスターを象徴するシーホースがあしらわれているのだ。
この当時のデ・ヴィルは、同年代のシーマスターと比較すると、細いベゼルと非常に薄いケースが特徴となっており、ラグも細く華奢な印象を与えるが、スクリューバック式の裏ブタを採用し、シーマスターの名に恥じぬ防水性を確保している。
またマット仕上げのホワイト文字盤にはブレゲ数字のアラビアインデックスが使用されており、ドレスウオッチらしい上品な佇まいだ。黒いリーフ針もエレガントでありながら視認性を高めている。
ムーヴメントには、コンステレーション クロノメーターにも採用されていたものと同系統のCal.711が搭載。オメガの最高傑作と名高いCal.560系を、さらに薄型化した設計が特徴的で、パーツ配置からは後のCal.1000系に通ずる設計が見て取れる。錆防止のためにカッパーメッキが施された美しいムーヴメントは、オメガならではの仕上がりだ。
シーマスターの実用性とデ・ヴィルのドレッシーさ、二つのいいとこ取りをしたこのモデルは、実用性と上品さのバランスが取れたオメガらしい時計と言えるだろう。ドレスウオッチが好みだが、日常生活での使用には不安が残るという人には、ぜひチェックしてほしい1本だ。
文◎LowBEAT編集部/画像◎WatchTender 銀座
【写真の時計】Ref.165.008。SS(34mm径)。自動巻き(Cal.711)。1968年頃製。21万8000円。取り扱い店/WatchTender 銀座
今回紹介するのは、シチズンオートデーター ユニである。シチズンが製造していた自動巻き腕時計“ジェット”と同時期に登場した時計だが、ジェットの圧倒的知名度の高さと、オートデーター ユニ自体の流通量が少ないこともあって、アンティークシチズンのなかでも存在感の薄いシリーズだ。
そのなかでも、今回紹介する個体はスーパーコンプレッサーケースによく似た防水ケースが採用された珍しいモデルだ。シチズン独自のパラウォーターという防水機構が採用されたこの時計は、当時のジェット機の油圧機構パッキンに採用されるほどの耐圧性能をもつOリングを、リューズや裏ブタパッキンとして応用し、国産時計としては初めて本格的な防水機能を実現していた。
そしてこの防水性能をアピールするために、当時のシチズンは自動巻き防水時計の“オートデーター パラウォーター”をブイ(浮き)につけ、太平洋や日本海を横断させるという大胆なキャンペーンを実施していたのだ。実際に、時計は脱落していたものの、アメリカのオレゴン州にブイが漂着していたことが確認されている。このほかにも、対馬海流に乗せて流した時計は青森県や北海道、鹿島灘にも漂着するなど、キャンペーンは大成功を収めたとされている。今回紹介するモデルとは異なる時計ではあったものの、このPR効果は絶大で、シチズン製腕時計の技術力と信頼性を示したのであった。この影響もあってか、当時海やプールで時計を着けて泳ぐことが流行したというから驚きである。
しかし、パッキンの経年劣化による防水性能の低下や、防水性能を過信しすぎた使用方法によって、現在の市場で流通している個体のなかには水没してしまったことがあるものも少なくない。その点、今回紹介する個体はほとんど使用されていなかったのか、極めて良好なコンディションを維持しており、夜光塗料やインナーベゼルの塗料も変色せずに残っている。さらに、オリジナルのステンレススチール製ブレスレットとタグが付属している点は見逃せない。
デザインに注目すると、コンプレッサーケースに似たインナーベゼルを備えており、シチズンが海外のダイバーズウオッチからインスピレーションを受けていたことが伝わる。また、シルバーのサイレイ文字盤とブラックのインナーベゼル、筆記体のロゴが採用され、当時の国産時計と比較するとスタイリッシュなデザインに仕上がっている。そして、防水性能を象徴するかのように配された“40m”の青い文字が、どこか遊び心を感じさせてくれる。
この1本は、まさに“国産防水時計の夜明け”を告げる先駆的存在と言えるだろう。海外製品の影響を受けながらも、日本独自の技術と発想によって完成されたモデルとして、後の国産ダイバーズウオッチ開発にも大きな影響を与えたのではないだろうか。
文◎LowBEAT編集部/画像◎Watch CTI
【写真の時計】SS(36.5mm径)。自動巻き。1965年頃製。29万7000円。取り扱い店/Watch CTI