冒険家の植村直己が使用していたことで知られるセイコーのセカンドダイバー Ref.6105-8110。海外では、1979年に公開された映画『地獄の黙示録』にてウィラード大尉役を演じるマーティン・シーンが劇中で使用していたことでも有名なモデルだ。
実はほかにも、カナダの宇宙飛行士デビッド・ウィリアムズ博士が水中訓練で使用したことや、伝説のサーファー、エディ・アイカウが装着していたことでも知られており、数多くの冒険家、研究家、ダイバー、サーファーたちに使用されてきた時計なのである。
今回は、過酷な環境に耐えうるセカンドダイバーの頑強さと人気の秘密を考察していこうと思う。
まずはケース構造についてである。
ファーストモデルである通称“62MAS”から、いっそう防水性を高めるために重厚なステンレスケースには分厚いパッキンが装着され、簡易的なピン式のリューズロック機構が備わっている。さらに徹底的に強度を高め、割れにくさを追求し、特殊強化処理をしたミネラルガラス(ハードレックスガラス)をL字断面のパッキンで保持することで、ガラス風防側からの浸水を防いでいるのだ。クッション形のケースは一見すると装着感が悪そうに思えるものの、曲線的なケースと4時位置にリューズを配置することよって装着性を高めている。
水中という過酷な環境や強い衝撃、特に尖った岩場や工具に強くぶつかった際に生命線でもあるダイバーズウオッチを守るためには、当時一般的であったアクリル風防よりも耐久性の高い、ピンポイントでの衝撃にも耐えうる風防が絶対条件だったのだろう。そこで採用されたのが、セイコーが開発した風防ガラスの”ハードレックス”である。
ハードレックスガラスは傷が付きやすいものの、十分な厚みをもたせると、衝撃に強く割れにくいため、ダイバーズウオッチの風防として最適であり、また同時に当時はサファイアガラスが普及しておらず、コストを考慮したという側面もあったはずだ。
それを踏まえたうえで市場に出回っているセカンドダイバーを観察すると、風防が傷だらけだったりフチに欠けがあっても、ひび割れを起こしているものや、砕け散ってなくなっているものはほとんど見かけない。
また、ベゼルは逆回転防止機能がない時代のものであるため、両方向に回転する仕様だ。しかし、ベゼル内部のパッキンが圧し潰されて摩擦を生むことで、無駄に回転しない適度な重みを生み出している。さらにベゼル裏に彫られた60カ所の溝に、クリック式のスチールボールを当てることで、1分刻みの正確な動作を確保している。程よい重みで、パチンパチンと小気味良いクリック音を立てるベゼルは、実際に使う用事がなくともついつい回してしまうほどに心地良い。ちなみにあまりにも過酷な環境で使用していた個体はベゼルがガタついてしまっている場合があるため、購入の際にはチェックしたいポイントだ。
そして、ムーヴメントには堅牢さと正確さを両立したCal.6105を搭載。手巻き機能はないものの、パーツ点数が少なく、故障しにくいマジックレバー式の自動巻き機構を採用することで実用性を高めている。Cal.61系は量産化を目的とした薄型のムーヴメントで、主にセイコー5シリーズに使用されていたが、その素性の良さと耐久性から、高振動化と手巻き機能を付与してグランドセイコーにも採用され、さらに自動巻きクロノグラフのベースにまで採用された実績のある大出世キャリバーなのだ。
さらに、文字盤のインデックスはすべてエンボス加工で立体的に成形されている。これは強い衝撃を受けた際に外れることがない(一般的な植字インデックスは外れる可能性がある)ようにするためだ。マットなブラック文字盤上に、シルバーのフチどりがなされた夜光インデックスが良く映り、高級感を演出するとともに視認性の向上にも一役買っている。文字盤に光が入った際に、平滑に加工されたインデックスと針がキラリと光る瞬間に、この時計の作りの良さを実感できるだろう。
内外装ともに、過酷な環境下での使用を想定し、耐圧性と耐久性を重視した素材の選択と設計をしたことで、ほかの時計にはない圧倒的な強度を手に入れたのだ。堅牢性を極めた設計は後のセイコーダイバーシリーズにも受け継がれ、その信頼性の高さから国内外を問わず、多くのユーザーに愛されるシリーズへと昇り詰めていった。
そんな伝説的な話題が絶えないセイコーの歴史的ダイバーは、その人気から年々価格が高騰してしまっている。そんな中でも、非常に状態が良いモデルはかなり減少しつつある。以下に掲載している2本は全体的に状態が良く、特にこのモデルで破損の多い、リューズロックのピンが健在である点は見逃せない。セイコーのダイバーが気になる人、アンティークウオッチの中でも頑丈なモデルを探している人、初心者・上級者を問わずおすすめできる時計だ。ただし、市場には修理が困難な状態である個体や、社外品のアフターパーツが使用された個体が少なくないため、専門店で整備された個体を購入することを推奨する。
文◎LowBEAT編集部
SEIKO 150m DIVER 2nd Ref.6105-8110 PROOF文字盤
【商品情報】SS(44mm径)。自動巻き(Cal.6105B)。1970年代製。66万円。取り扱い店/BQ
文字盤6時方向の防水表記に注目。数字の“150”に続く文字が“PROOF”となっている。これはRef.6105-8110のなかでも初期製造分に見られるレアディテールで、相場も割高になっている。
SEIKO 150m DIVER 2nd Ref.6105-8110
【商品情報】SS(44mm径)。自動巻き(Cal.6105B)。1970年代製。35万2000円。取り扱い店/BQ
こちらは、数字の“150”に続く文字が“RESIST”となっている。
ジャガー・ルクルトを代表するアラームウオッチ“メモボックス”。
メモボックスと言えば、1950年代に誕生し、度重なる改良を続け、いまなお製造が続けられているジャガー・ルクルトを代表する名作シリーズだ。こちらは1970年代に製造されたメモボックスで、自動巻きムーヴメントCal.916を搭載している。
文字盤は珍しい2トーンカラーのダイアルを採用し、メモボックスの顔とも言える回転ディスクはエイジングが進み、味わい深いブラウンカラーへと変化している。こういった文字盤は “トロピカルダイアル”と呼ばれ、愛好家たちの間で広く好まれている。経年変化が生み出す柔らかな色味と、侘び寂びを感じさせる風貌が時代を感じさせる。また、9時位置に“JL”のアプライトロゴが配された珍しいレイアウトのダイアルデザインも見逃がせない。
メモボックスは手巻きのCal.489から始まり、アメリカ市場での自動巻き需要に応え、バンパーオートマチックのCal.815へと発展していった。これらのキャリバーは、音を反響させるために裏ブタに立てたピンをムーヴメント内部に搭載されたハンマーで叩く構造を採用していたのだが、裏ブタを決まった位置で固定する必要があったため、ねじ込んで固定するスクリューバック式のケースを採用できなかった。さらに、全回転式のローターを採用しようとしても、ピンがローターに干渉してしまうという欠点があった。
この問題を解決したのが、今回紹介するCal.916を搭載したメモボックスだ。Cal.916は中心が空洞になった全回転ローターを載せ、その空洞に裏ブタのピンを通す設計を採用している。これにより全回転ローターを採用しながらも、スクリューバック式の採用を可能にしたのだ。 1970年代の自動巻きでは、通常の輪列と同じレイヤーに自動巻き機構を納める薄型の設計が主流であった。しかし、メモボックスはアラーム用ゼンマイとハンマーが多くのスペースを占有していたため、自動巻き機構を輪列と同一のレイヤーに納めることができなかったのだ。そこで、コンパクトで巻き上げ効率の高いマジックレバー(に似たラチェット式の構造)を採用することで、アラームのハンマーに干渉しない、自動巻き構造を実現した。このローター直下からマジックレバーをオフセットさせたレイアウトは、セイコーのCal.7S(Cal.70系)にもよく似た構造であった。 アラーム時計にこだわったジャガー・ルクルトの熱意と工夫、試行錯誤が感じられる、名作と呼べる1本なのではないだろうか。
文◎LowBEAT編集部
【写真の時計】ジャガー・ルクルト メモボックス Ref.875.42。SS(37mm径)。自動巻き(Cal.916)。1970年代製。69万8500円。取り扱い店/BEST VINTAGE
マストタンクのなかではほかにない、ブルー単色のカラーダイアル。“ラピスラズリ”と呼ばれているが、実際にはエナメルによって天然の質感を再現したもので、初期の手巻きモデルによく見られたノンインデックスタイプの“ザ・ドレスウオッチ”と呼べる佇まいだ。
凛とした青色に、星空のような金色の斑点が散りばめられているのが特徴。この年代のエナメル文字盤はクラックが入りやすく、文字盤全体にクラックが入っているが、“貫入”と呼ばれるひび割れができた陶磁器のような質感にも見え、工芸品のような味わい深さを感じる。
こうしたクラックの入った文字盤は、主にロレックスで“スパイダーダイアル”とも呼ばれ、特定の年代の艶のある文字盤に発生しやすい。本来であれば、環境の変化に耐えきれず割れてしまった“不良品”として扱われてしまうのだが、同じ模様がない特別さや、侘び寂びを感じる風貌、経年によって生まれた偶然の産物としての希少性に注目され、愛好家たちに好まれる傾向にある。新品の文字盤では再現できない凄みがあるのだ。
ケースにはスターリングシルバーに金を張り付けた、ヴェルメイユと呼ばれる技法が使用されており、電解メッキで処理された金メッキよりも層が厚く、質感が非常に高いのが特徴。金無垢と同等の質感を維持しつつ、価格が抑えられているのがうれしいポイントだ。
ムーヴメントは手巻き式で、自分でゼンマイを巻き上げて時刻を合わせる必要がある。 しかし、この面倒とも思えるルーティーンは、洗顔やヘアセットのように毎日決まった時間に行うことで時間という概念を再認識し、生活にメリハリを与えてくれることだろう。 また絶対に遅刻できない会議がある日は、針を5分進ませるという使い方も可能だ。時間厳守、標準時刻ピッタリなど、時間にコントロールされている現代でこそ、自分の時間を大切にする寛容さが必要なのではないだろうか。自分だけの時間の流れ、自然的な変化を求める人におすすめしたいカルティエのラピスラズリLMだ。
文◎LowBEAT編集部
【写真の時計】カルティエ マストタンク LM。ヴェルメイユ(23mm×30mmサイズ)。手巻き。1970年代製。32万8000円。取り扱い店/DECO
人気の高いアンティーク時計では、しばしば愛好家の間で愛称が付けられることがある。
ここで取り上げるロンジンの“セイタケ”(Sei-Tacche)もそのひとつだ。
ロンジンと言えば“トレタケ”(Tre-Tacche)という名称のほうが有名だが、これが溝(イタリア語でTacche)が三つ(イタリア語でTre)あるスクリューバックを意味するのに対し、“セイタケ”は溝が六つ(イタリア語でSei)あるスクリューバックのことを指す。
この個体は、1950年代前期に製造されたロンジンで、初期の厚みのあるケースからラウンドシェイプした薄型へ変更された後期型“セイタケ”だ。33mmサイズが多く見られるセイタケでは珍しい、36mmサイズのジャンボケースで、アメリカのブレスレットメーカー、JB.チャンピオン社製のオリジナルブレスレットが付属することでより存在感が際立つ逸品である。
“パンダ”と呼ばれるツートンダイアルはジャンボケースならではの絶妙なバランスと風合いある経年変化が素晴らしいテイストで、スモールセコンドやセンターセコンド、ストップセコンドなどバリエーション豊富なロンジンを代表する名機Cal.12.68Zを搭載している。シンプルかつ古典的な設計ながら丁寧に分割された受け板や、シャトン付きの穴石など、かなりの手間をかけたムーヴメントである。1929年を初出とし、長年にわたって生産されたことから、その信頼性の高さがうかがえる。堅牢なケースとあいまって、現代における実用も問題ないだろう。
丸みのあるケースデザインとツートンのダイアルはどこか可愛らしくも、使用シーンを選ばない。万能なスタイリングは、アンティーク初心者から上級者を問わず、誰にとっても使いやすい時計として作られている。ロンジンはほかの有名ブランドの時計と比較すると、華やかさや革新的な技巧、突出したデザインはあまり見られない。
しかし部品一つひとつの精度や基本に忠実な設計を磨き上げることで、正確な時を刻む時計を生み出してきた。この真面目さがロンジンというブランドの信頼と地位を築き上げてきたことは言うまでもない。クラフトマンシップを肌で感じたい、堅牢なアンティークウオッチを探している人にはおすすめの1本だ。
文◎LowBEAT編集部
【写真の時計】ロンジン セイタケ。SS(36mm径)。手巻き(Cal.12.68Z)。1950年代。69万3000円。取り扱い店/プライベートアイズ
アンティークウオッチ専門誌『LowBEAT(ロービート)』最新号No.26が4月28日(月)に発売開始。
早速その見どころをを紹介します
2025年4月28日(月)発売 定価:1925円
見どころ1.
最新26号では、『時計愛好家 12人の選択』と題した特集をお届けします。非常に趣味性が高いアイテムであるアンティーク時計。これに魅了された人々は、どういったこだわりをもち、普段どういう付き合い方をしているのか。12人の愛好家たちに登場いただき、彼らのアンティーク時計への思いと、そのライフスタイルに迫ります。
見どころ2.薄型ドレスウオッチにクローズアップ
そして見どころはもうひとつ。“薄型ドレスウオッチ”にフォーカスした特集も必見です。本特集では手巻き、自動巻きそれぞれの傑作キャリバーを軸にしてその魅力を再考しています。
ほかにも、ブランド再始動が発表され注目を集めるクロノグラフの名門“ギャレット”にクローズアップした特集や、ケアーズ会長の川瀬氏による「Dr.川瀬の歴史に埋もれた いとしの古時計」、そして『国産腕時計』増補版の執筆者で知られる本田義彦氏による「JAPAN WATCH 再考」や「男の身だしなみ講座」といった連載も見逃せません。今回も充実した内容でお届けしています。
【問い合わせ先】シーズ・ファクトリー TEL:03-5562-0841
CONTENTS
●Cover Story カバーストーリー ROLEX SUBMARINER
●アンティーク 解体新書 File No.15
再始動で注目が集まるクロノグラフの名門ギャレットの魅力
●アンティーク時計とともにおくる日常のライフスタイルに迫る
時計愛好家 12人の選択
●名機礼讃 PATEK PHILIPPE / ROLEX /AUDEMARS PIGUET × HERMÈS /DRIVA / LEONIDAS
●傑作キャリバーを軸に魅力を再考
珠玉の薄型ドレスウオッチ
●アンティークショップこだわりの逸品50選
●アンティークの魅力を伝え続ける名店たち Antiques SHOP GUIDE
COLUMN&NEWS
●銀座の名店シェルマンで手に入れる
名門3大ブランドのドレスウオッチ9選
●アンティーク初心者の入門モデルにも最適
狙い目のオールドオメガ10選
●Dr. 川瀬の歴史に埋もれた いとしの古時計
第2回 自動巻き黎明期に生まれたユニークなメカニズム
●コレクター白苺が綴るアンティークウオッチエッセイ Vol.23
白苺のムーヴメント偏愛「私がいかに時計マニアになったかについて」
●シチュエーション別に指南 男の身だしなみ講座【File.08】
コム デ ギャルソン
●コミット銀座の腕利きの鑑定士 金子氏おすすめのレアロレックス3選
●JAPAN WATCH 再考 国産腕時計の知られざる真実をひも解く
第16回「国産腕時計の薄型化」
●ウオッチトレンドを考える。第16回
アンティークウオッチを裏スケ仕様にしたら景色が一変!
●嗜好の時間
●歴史に消えた「キワモノ」時計 第10回【ジャンピングアワー】
●第6回アンティーク時計フェア出店社情報
ジャガー・ルクルトを代表するアラームウオッチ“メモボックス”。
今回紹介するのは、1960年代頃製造された、珍しいイエローゴールド無垢仕様で、バンパー式の自動巻きムーヴメントCal.K825を搭載する。メモボックス“Memovox”というペットネームは、ラテン語のMemoria(記録)とVox(声)を組み合わせて生まれたとされている。
メモボックスの顔とも言える回転ディスクと、二つのリューズが愛らしい。金無垢ケースならではの反響が生みだすアラーム音も必聴だ。一見すると当時の手巻きアラームウオッチに見えるが、古典的ながらも自動巻き機構を備えているというギャップがたまらない。
1940年代から50年代にかけて、スイス製腕時計の主要輸出国であったアメリカでは、利便性に優れた自動巻き腕時計の需要が拡大していたとされている。ロレックスやIWCをはじめとし、オメガなどもアメリカ市場を意識した腕時計を生産していた。さらに、ヴァルカンの名作アラームウオッチ、“クリケット”が市場で大ヒットしたことで、アラームウオッチの需要も高まっていたのだ。
しかし、ジャガー・ルクルトをはじめとしたアラーム機能の搭載された当時のムーヴメントは、裏ブタから内部に向けて飛び出たピンをハンマーで叩く構造を採用しており、自動巻きのローターを納めるスペースが限られていた。そのため、当時主流になりつつあった全回転式のローターはピンと干渉するため使用できなかったと推察できる。
そこで、ジャガー・ルクルトは既存の手巻きアラームのムーヴメントをベースに、可動域が限定されたバンパー式の自動巻きユニットを載せることで裏ブタのピンと巻き上げローターの干渉を避け、自動巻きとアラームの機能を両立させたのだ。この自動巻き機構は片方向巻き上げのシンプルな設計であるため整備性にも優れていた。
さらに、この個体のケースは、外周式のスクリューリングを用いたツーピースの裏ブタ構造を採用しており、気密性を重視したモデルである点も見逃せない。
要求される性能と技術的な制約の中で、試行錯誤を重ねて生まれたこの時計は、今日においても色褪せない魅力とオーラを放っている。腕時計だけでなく、自動車や航空機、工業製品や美術品など、限られたリソース、環境下で誕生したプロダクトには、大金をかけただけでは手に入れられない魅力があると感じるのだ。こういったロマンとも呼べるバックストーリーが、アンティークウオッチの価値を底上げするのだろう。
文◎LowBEAT編集部
【写真の時計】ジャガー・ルクルト。メモボックス 。K18YG(37mm径)。自動巻き(Cal.K825)。1960年代製。82万5000円。取り扱い店/BEST VINTAGE
クロノグラフの名門として名高いギャレットは、1950年代に巻き起こったアメリカでのアラームウオッチブームに乗じてア・シールド製のムーヴメントを活用し、このアラームウオッチをリリースした。当時のギャレットがクロノグラフに注力していたことを考えると、生産本数は少なかったことが考えられる。
搭載されるCal.AS1475は当時のアラームウオッチに数多く搭載された汎用機であり、各メーカーのアラームウオッチ生産を支えた傑作と言えるだろう。シンプルで故障が少なく、生産性の高い手巻きのムーヴメントであるため、各社がこぞって採用していたことにもうなずける。
文字盤は、12、3、6、9 の位置にアラビア数字と、アラーム時間を示す赤い先端の針が特徴的な可愛らしいデザインだ。ブランドロゴの“G”を注目すると、“2:50”を指す針が描かれており、ほかのモデルには見られない特徴が確認できる。
ケースの右側には二つのリューズが取り付けられており、2時位置のリューズはアラーム用ゼンマイの巻き上げとアラームの設定に、4時位置のリューズは時計本体の巻き上げと時刻調整として割り振られている。誤動作や故障しにくいシンプルな構造は、使用者にとっても扱いやすく、操作性の向上にも貢献しているのだ。
また、36mm径の小振りなケースと、手首に沿う形状のラグは装着感の良さを高めている。裏ブタにアラーム用のピンを立てる必要があることから、気密性の高いスクリューバック式のケースを採用できなかったアラームウオッチだが、このモデルでは、リング型のスクリューで裏ブタを押し付ける方式を採用し、スナップバック以上の気密性を確保している。
金張りケースを採用した華やかな見た目だが、実用性を重視した堅牢な作りこみからはギャレットらしさを感じられる。どこか脱力感のあるアプライドのアラビアインデックスとケースデザインが柔らかな雰囲気をただよわせる実用時計だ。
文◎LowBEAT編集部
【写真の時計】ギャレット アラームウオッチ。GF(36mm径)。手巻き(Cal.AS 1475)。1950年代。32万8000円。取り扱い店/WatchTender 銀座
1970年製造の、キングセイコー第3世代の56KS。
56KSと言えば、44GSによって確立された“セイコースタイル”を彷彿とさせる、エッジをきかせたケースデザインを思い浮かべる人も多いだろう。
だが、今回紹介するモデルはそれとは対照的に曲線を基調としたやわらかなケースデザインをもつ1本だ。1970年代らしい特徴的なトノー形のワンピースケースは、なんとも言えない愛嬌を感じられる。
しかし、ケース裏面はセイコーらしいかっちりとした造形で、中央部にはKSのメダリオンが鎮座している。
さらにこのモデル最大の特徴として、6時方向のラグ間にあるネジを開けることで中の緩急針を調整できる、“外部微動緩急調整”機能が備わった点も見逃せない。これはグランドセイコーにも見られない、ワンピースケースの56KSだけにあたえられた調整用機能だ。
こういった目に見えない隠れたギミックは、精度を追求していた当時のセイコーらしさを感じる。また、カレンダー機能をこぞって採用していたこの年代の時計としては珍しく、カレンダー機能をもたないノンデイトモデルですっきりとした文字盤デザインだ。56系のウィークポイントとも言えるカレンダー機構がついていないことも、実用を考えている人にはうってつけだろう。
キングセイコーと言えばエッジの効いた鏡面ケースが第一に挙げられるが、角がなくスリムなケースは袖に納まりやすく、サテン仕上げを施すことによってぎらつきを抑えているので悪目立ちしない。面倒な腕時計論争に巻き込まれそうになれば、時計をスーツの袖に隠すことで、角を立てることなく華麗にスルーできるだろう。初めての国産アンティークを探している人、落ち着いたビジネスウオッチを探しているという人にはぜひチェックしてもらいたい1本だ。
文◎LowBEAT編集部
【写真の時計】セイコー キングセイコー。Ref.5621-7000。SS(36mmサイズ)。自動巻き(Cal.5621A)。1970年頃製。11万8000円。取り扱い店/SELECT
目を引くブルー&ブラックのマーブル模様が魅惑的な1974年製、セイコーの2針ラウンドモデル。
時分針のみの2針とアラビア数字のインデックスは、白文字で実用性もしっかりと考えられた作り。当時は“ドレスウオッチ・スタイルウオッチ”シリーズとして販売されていたモデルだ。このシリーズはのちに“シャリオ”と名を改めている。ケースコンディションも良く、手首に乗せた時のフィット感と雰囲気が抜群な1本だ。
搭載されるムーヴメントは手巻き2針のCal.2220。小径ながら毎時2万8800振動のハイビートかつ、24石の高性能なムーヴメントである。セイコードレスウオッチの中でも、薄型2針で有名な68系と比較すると、ムーヴメントの厚みや希少性の観点から見劣りしてしまうかもしれない。しかし、流通量の多さや十分に薄いケースをみれば、手ごろな価格で入手できる2針ドレスウオッチとしては数少ない選択肢のひとつであると言えるだろう。
何より、アンダー10万円でここまで薄型の手巻きドレスウオッチはまず見つからない。装着した際には、ケース底面の形状も相まってシャツの中にすっぽりと納まる薄さに仕上がっている。
シンプルでトラブルの少ない2針の手巻き時計は、腕時計を使う頻度が少ない人にこそオススメしたい。手巻き時計の場合、定期的にオーバーホールさえ行っていれば、使いたいときにゼンマイを巻き上げて時刻を合わせるだけで良いからだ。この手軽さは手巻き時計ならではの魅力ではないだろうか。
連れ出す前にゼンマイを巻いてエネルギーを与えるという行為は、腕時計が相棒のような存在に感じられ、よりいっそう愛着が湧くだろう。
文◎LowBEAT編集部
【写真の時計】セイコー ドレスウオッチ・スタイルウオッチ。Ref.2220-0460。SS(34mm径)。手巻き(Cal.2220)。1974年頃製。5万5000円。取り扱い店/SELECT
The 6th Antique Watch Fair in Ginza, an antique watch sales event, will be held at Ginza Phoenix Plaza on August 2 (Sat.) and 3 (Sun.).
Tickets can be purchased at the venue on the day of the event.
The price is 6,500 yen for Early Time Ticket / 1,200 yen for General Ticket.
[Schedule]
Saturday, August 2, 2025
10:00-12:00 / Early Time
12:00-17:00 / General (*Admission closes at 16:30)
Sunday, August 3, 2025
10:00 - 16:00 / General (*Admission closes at 15:30)
*A paid ticket is a two-day pass, so it is possible to re-enter the venue or to enter on a different day (by presenting the ticket again). However, please note that you may be asked to wait for re-entry depending on how crowded the venue is.
Children under elementary school age and pets are not allowed in the Main Hall. (A waiting room is available.)
*Acceptance will begin 30 minutes prior to the entrance start time.
Please note that you may be asked to wait in the event of congestion even after the ticket acceptance time.
The last entry time will be 16:30 on 2nd August (Sat) and 15:30 on 3rd August (Sun).